岩石間隙中に水と空気が混在する不飽和状態では,間隙表面に存在する水膜が岩石中の反応(イオンの吸着や,溶解,沈殿)に重要な役割を果たす。鉱物表面へのイオンの吸着量は,電気二重層の構造と密接に関連している。水膜中では,水膜の厚さに応じて電気二重層の重なり合い,イオンの吸着量が変化する可能性がある。しかしながら,イオン吸着量の予測に良く使われるtriple-layerモデルでは,電気二重層が重なっていない状態を想定しており,triple-layerモデルが水膜で覆われた鉱物表面の吸着現象へ適用できるかは明らかではない。そこで,triple-layerモデルを,鉱物/水界面と空気/水界面の二重層の重なりを加味できるように改良し,水膜の厚さの変化によって吸着量がどのように変化するのかを評価した。 改良したtriple-layerモデルを水膜で覆われた石英表面のおけるNa+イオンの吸着へ適用した。水膜で覆われた場合,水で完全に満たされた間隙の表面と比べて,吸着量が減少することが示唆された。pHが中性の条件では,石英表面は>SiOH → >SiO- + H+で表されるプロトン脱着反応によって>SiO-サイトが形成され,負に帯電する。Na+は静電相互作用によって>SiO-サイトへ吸着する。水膜中の重なった電気二重層では,二重層中のH+濃度が増加するため,H+濃度を減らす方向へ反応:>SiO- + H+ → >SiOHが起こる。その結果,Na+が吸着できるサイトが減少し,水膜で覆われた鉱物表面ではイオンの吸着量が減少すると解釈できる。以上から,電気二重層の重なりによって表面電荷が変化することが示唆され,不飽和岩石中のイオン吸着量は水膜厚さ(電気二重層の重なり度合い)の影響を受けることが推察される。
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