研究課題
本課題では,モデル実験植物シロイヌナズナのモリブデン(Mo)補酵素硫化酵素ABA3がストレス応答に重要な複数のMo酵素を活性化する事実に基づき,ABA3が制御する代謝で生産される新規な生理活性物質の単離・同定を目指している。当該年度は主に下記二つの成果を得た。(1)ABA3の欠損変異がシロイヌナズナのトランスクリプトームに与える影響を解析した。マイクロアレイを用いて,浸透圧ストレスに曝したaba3変異体のトランスクリプトームを解析し,野生型および植物ホルモンアブシジン酸が欠損したaba2変異体と比較した。その結果,非常に興味深いことに,aba3変異体でのみ発現量が増大あるいは減少している遺伝子を複数同定した。非常に興味深いことに,この遺伝子群には含硫黄化合物やアントシアニンの生産に関わる遺伝子が有意に含まれていた。(2)シロイヌナズナのMo酵素アルデヒドオキシダーゼAAO3はアブシジンアルデヒドを基質に植物ホルモンアブシジン酸を合成する。シロイヌナズナでは,AAO3のホモログとして3遺伝子が同定されていることや多様なアルデヒドが検出されていることを鑑みると,AAOが生産する代謝化合物の中に他にも環境応答に重要な生理活性物質が存在すると推測できる。そこで,AAO1, AAO2およびAAO4の生体内基質や生理学的役割を明らかにするために,これら遺伝子欠損がシロイヌナズナの環境応答に与える影響を調査した。その結果,複数の変異体が光や熱に対して異常な応答を示すことが示唆された。さらに,生体内で生産されるアルデヒドのライブラリーを構築し,それらに対する各AAOのオキシダーゼ活性を活性染色法により in vitro で評価した。その結果,AAO1とAAO2で基質特異性の異なるアルデヒドを同定した。
2: おおむね順調に進展している
aba3変異体を用いたトランスクリプトーム解析やAAOの生理機能の解析,新規な生理活性を持つアルデヒドの探索など,当初予定していた実験の多くは実施できた。メタボローム解析については,使用予定であった質量分析装置が不調であったため若干の遅れが生じているが,ABA3に特異的なストレス応答がトランスクリプトームから明らかになりつつあることや生理活性を持つ生体アルデヒドの絞込が順調に進んでいることを踏まえると,この遅れは軽微である。また,現在は安定して質量分析装置が稼働しているので,次年度以降で十分に取り戻せる遅れであると考えている。
今後は,遅れているメタボローム解析を優先的に進め,メタボロームとトランスクリプトームを照らし合わせることで,ABA3が制御する代謝経路の同定を目指す。トランスクリプトームから同定した候補代謝(アントシアニン及び含硫黄化合物の生合成代謝)については,その制御メカニズムにおけるABA3の役割を明らかにしていく。また,新規生理活性アルデヒドの探索については,AAO変異体の表現型をさらに詳細に解析するとともに,アルデヒドライブラリーを用いてAAOの変異と同様の表現型を誘導するアルデヒドを探索する。
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Journal of Experimental Botany
巻: 67 ページ: 2519-2532
10.1093/jxb/erw071