研究課題/領域番号 |
15J09117
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
江尻 祥 東京大学, 数理科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 正標数の代数幾何学 / Albanese射 / 大域的F分裂 / 通常Abel多様体 |
研究実績の概要 |
1つ目の研究では、正標数の正規射影多様体のAlbanese射の幾何学的性質について調べた。前年度までは正標数の代数的ファイバー空間の性質を調べてきたが、今年度のこの研究では、Albanese射が代数的ファイバー空間となるための条件を調べ、以下の2つがそれぞれ十分条件を与えることを示した。(1)反標準因子がネフであり、かつAlbanese射の像の上の一般ファイバーがF純特異点しか持たない。(2)大域的F分裂である、即ち、構造層のFrobenius射が分裂する。 条件(1)の場合の結果は、Wangの3次元多様体に関する結果の一般化である。加えて、標数0の場合にZhangが示した結果の、正標数における類似でもある。また条件(2)の場合の系として、通常Abel多様体が、第1Betti数が次元の2倍に等しい大域的F分裂な正規射影多様体として特徴づけられる。 2つ目の研究では、上記のものとは異なる視点から通常Abel多様体について調べ、以下のような特徴づけを与えた。標数p>0の正規射影多様体が通常Abel多様体であるのは、次の2条件がどちらも成り立つとき、またそのときに限る。(i)ある自然数eが存在し、pのe乗が2より大きく、かつe回Frobenius射による構造層の直像層が直線束の直和に分解する。(ii)標準因子が擬有効である。 先行研究である、三内と田中による通常Abel多様体の特徴づけは、条件(ii)が無限個の自然数eについて成り立つことを要求しているが、今回の結果ではある1つのeについてのみ要求している。またpのe乗が2より大きいという条件は最良である。即ち、p=2,e=1の場合に上記の条件を満たす滑らかな射影多様体であって、Abel多様体でないものが存在する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究によって、全空間が3次元の場合の飯高予想を示すことが出来た。今年度はAlbanese射やAbel多様体を中心に研究を行ったが、それによって得られた結果や技術は、底空間としてAbel多様体を持つ代数的ファイバー空間の研究に有用であると考えている。底空間がAbel多様体であるという状況は特殊だが重要であり、例えばこの場合において飯高予想が解決されれば、特別な場合のアバンダンス予想が従う。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究によって得られた結果や技術をもとに、代数的ファイバー空間が底空間としてAbel多様体を持つ場合に、弱正値性定理や飯高予想を考える。まずは、全空間の標準因子が底空間上のあるQ因子の引き戻しにQ線型同値であるという、強い仮定のもとで取り組む。 また、これまでの研究では幾何学的一般ファイバーがF純特異点しか持たないことを仮定してきたが、与えられた代数的ファイバー空間の幾何学的一般ファイバーが持ち得る特異点については十分には知られていないため、これについての研究も行う。
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