研究課題
多様な生物活性を有する海洋天然物は、創薬研究や生命科学研究において重要な研究材料として利用されている。しかしながら、化合物の作用メカニズムの解明は非常に困難であり多大な労力を要するため、多くの海洋天然物に関してその詳細な機能解析が行われていない。本研究では、ケミカルゲノミクスの研究手法を用いて、機能未知である海洋天然物の分子標的ならびに、生物活性の作用メカニズムの解明を目指す。本年度は、カイメンより単離されたトプセンチンに関して、遺伝子破壊出芽酵母ならびに遺伝子破壊分裂酵母ライブラリを用いたケミカルゲノミクススクリーニングを実施した。その結果、トプセンチンが小胞輸送や細胞膜ストレスなど、広く生体膜を介したシグナル伝達に影響を与えることを見出した。また、細胞内でのトプセンチンの局在解析をおこない、酵母の細胞膜における脂質が標的であることを明らかにした。さらに、人工膜を用いた生化学的な解析により、トプセンチンが特定の脂質に結合することを明らかにした。本研究結果は、トプセンチンがこれまで報告されている脂質を標的とする化合物とは全く異なる機構で特定の脂質に結合している可能性を強く示唆しており、トプセンチンの作用メカニズムを解明することで、酵母の生体膜における脂質分子に関する新たな知見を得ることができると予想される。また本研究において、トプセンチンが特徴的な自家蛍光を有する機能分子であることを見出しており、新しい蛍光プローブとしての利用可能性を示すことができた。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は当初の予定に従い、遺伝子破壊酵母を用いたケミカルゲノミクススクリーニングを実施し、化合物が広く膜系に作用することを見出した。また、研究過程で化合物が蛍光分子であることを発見した。この発見により、当初次年度以降に予定していた化合物の蛍光プローブ化の過程を必要とすることなく、化合物の細胞内局在解析を達成した。人工膜を用いた結合試験を行うことで、標的である脂質分子を見出すことができた。
当初の予定よりも研究が進展したため、固体NMRなどの各種分析機器を用いた化合物の脂質結合様式の解明に取り組みたいと考えている。また、酵母における化合物の作用メカニズムの解析をおこなうと共に、培養細胞における生物活性メカニズムの解析をおこなう。具体的には、遺伝的背景の異なる酵母における化合物の局在や生育に与える影響を評価し、細胞膜構成脂質に化合物が結合することで誘導される生体応答を評価する。また、培養細胞における化合物の局在解析と生物活性の評価を行う。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 1 7
10.1038/srep20856