研究課題/領域番号 |
15J09138
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
北井 悠一朗 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 慢性腎臓病 / 腎性貧血 / 線維化 / エリスロポエチン |
研究実績の概要 |
(1) 線維芽細胞の形質転換を促す新規液性因子の同定:ジフテリア毒素(DT)受容体のヒトHB-EGFを発現させることができるiDTRマウスを用いて、近位尿細管特異的にHB-EGFを発現するマウス(Ndrg1-CreERT2:iDTRマウス)を作成し、近位尿細管障害を惹起した結果、線維芽細胞の形質転換に伴う線維化と線維芽細胞からのエリスロポエチン(EPO)産生低下を認めた。DTを投与し、近位尿細管上皮障害を来したマウスの腎臓から、FACSにて近位尿細管上皮細胞を単離し、近位尿細管から産生され線維芽細胞の恒常性を保つ善玉因子、形質転換を促す悪玉因子の検索を行う予定である。
(2) 線維芽細胞の形質転換、EPO産生能低下に関わる細胞内シグナルの同定:一側腎尿管結紮 (UUO) モデルでは、線維芽細胞の形質転換およびEPOの産生低下が惹起されることに着目した。腎線維芽細胞を標識できるProtein 0 (P0) 遺伝子プロモーター下にCreをつないだP0-Creマウスを使用し、UUO施行後の線維芽細胞をFACSにて回収後、線維化の際に働くとされる既知のシグナル経路との比較の上、網羅的な遺伝子発現解析を行い、形質転換やEPO産生低下に関わる細胞内シグナルの同定を試みる予定である。
(3) 線維化が腎臓病進展に果たす役割の検討:P0-CreマウスとiDTRマウスを交配させたP0-Cre:iDTRマウスに、DTを投与し線維芽細胞特異的に蛋白合成を阻害した結果、DT投与群で健常腎、障害腎のいずれでも尿細管上皮細胞障害と増殖異常を来した。線維芽細胞の蛋白合成を抑制することで尿細管機能異常が引き起こされることから、尿細管の維持/修復における線維芽細胞の役割が示唆された。同マウスから線維芽細胞と尿細管をそれぞれFACSにて回収し、線維芽細胞由来の尿細管保護作用を示すシグナル経路の同定を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 線維芽細胞の形質転換を促す新規液性因子の同定、(2) 線維芽細胞の形質転換、EPO産生能低下に関わる細胞内シグナルの同定、(3) 線維化が腎臓病進展に果たす役割の検討をテーマにして研究を行ってきた。糖尿病性腎症における線維化に着目し、検討を行う予定としていたが、ストレプトゾトシン投与で解析に足り得る間質線維化を引き起こすことはできなかった。ただ、iDTRマウスを近位尿細管特異的に標識することが出来るNdrg1CreERT2マウス、そして線維芽細胞特異的に標識することが出来るP0-Creマウスと交配させることで、それぞれのテーマに対応した検討を遂行することが出来ている。現在、P0-Cre:iDTRマウスを使用し、DT投与後に尿細管機能異常が引き起こされたことより、尿細管の維持/修復における線維芽細胞の役割に焦点を当て、線維芽細胞由来の尿細管保護作用を示すシグナル経路の同定に取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
近位尿細管特異的にジフテリア毒素受容体を発現するマウス(Ndrg1CreERT2:iDTRマウス)を用いることで、尿細管からの液性因子が線維芽細胞の恒常性を保つのに不可欠である可能性を示した。現在、このマウスの腎臓から尿細管上皮細胞や線維芽細胞の単離を行い、尿細管から産生され線維芽細胞の恒常性を保つ善玉因子、そして形質転換に関与する悪玉因子の探索を行う方針としている。また、P0-Creマウスとindicatorマウスを交配させ、その仔マウスに対してUUOを施行後、その線維芽細胞をFACSにて回収し、形質転換やEPO産生低下に関わる細胞内シグナルの同定も試みている。
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