本研究では高速フォトクロミック分子の機能開拓を行い、高分子や液晶との複合化を行うことでマクロな物性を高い時空間分解能で光制御することを目的とする。 平成27年度は、既報の高速フォトクロミックイミダゾール二量体と種々の有機ラジカルをベースとしてイミダゾール二量体の枠を超えた新奇な高速フォトクロミック分子の開発を試みた。 これまでの研究ではフォトクロミズムを示すイミダゾール二量体に改良を重ねることで、迅速なラジカル再結合反応により光照射しているときだけ発色する高速フォトクロミズムを示す化合物の研究に取り組んできた。一方でトリアリールイミダゾリルラジカルと同様に、フェノールを酸化することで得られるフェノキシルラジカルもラジカル間二量化反応を起こす。フェノキシルラジカル二量体に紫外光照射するとラジカル解離反応によりフェノキシルラジカルを生成するものの、その光反応効率は極めて低いことが報告されている。そこでわれわれは、イミダゾリルラジカルとフェノキシルラジカルの類似性に着目し、ベンゼン環のオルト位にフェノキシルラジカルとイミダゾリルラジカルを導入したビラジカルが分子内ラジカル間結合により高速フォトクロミズムを示すフェノキシル-イミダゾリルラジカル複合体(PIC)を生成することを見いだした。異なる種類のラジカルが可逆的に結合形成およびラジカル解離する報告例はほとんどないが、PICはヘテロラジカル複合体がラジカル解離型フォトクロミズムを示す初めての例である。PICは様々な分子修飾が容易であり、消色反応に相当する熱戻り反応速度を自在に制御できること、および優れた繰り返し耐久性を有することから、高性能光スイッチ分子として、調光材料、実時間ホログラム材料、セキュリティインク材料、分子マシン材料などのさまざまな用途に応じた利用が期待できる。
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