安全保障上の脅威をもたらす存在に対していかに対処すればよいか。この問題に対しては従来,たとえば「威嚇か約束か」「強制か誘導か」「制裁か宥和か」「対話か圧力か」といった形で,とりうる政策の選択肢を二項対立的にモデル化することが自明視されてきた。このような前提は,現場の政策論争のみならず,強制外交論や対外政策論,安全保障論といった学術研究にも共有されてきたものと言ってよいだろう。まさしく本研究課題も,当初の構想においてはその枠組を外れるものではなかった。 しかしながら,現実の政治においては,ある脅威に対してある時期に実行されている政策的立場を,必ずしも「対話か圧力か」といった枠組みの一方の側に,疑問の余地なく分類できるわけではない。コミットメントの説得力を支えるのは,その背後にある国内合意や国際合意であると考えられるが,そうした合意が国際政治学の研究対象となってきたのは,そもそもなぜなのか。それは,安全保障上の政策争点に関する立場をめぐって,関係者が一枚岩であること(合意が存在すること)は到底自明視できるものではないからである。 以上で指摘した,通念的な認識枠組みと現実との間の齟齬は,学術研究における問いの立て方,実証のなされ方,さらに現場における政策論争のあり方まで,従来とは異なった角度から捉え直す必要を示唆するものと推測される。 なお,雑誌『国際政治』への研究成果の投稿は,年度内には間に合わなかった。しかし,原稿は現時点において作成の最終段階にあり,本報告書の提出と前後して投稿される予定である。
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