メビウス・エネルギーは、ユークリッド空間内の結び目の標準形を決まるためのエネルギーとしてO’Haraが導入したエネルギーの一つで、メビウス変換によって不変である事がその名前の由来となっている。特にスケール変換によって不変であるため、通常の最小化列の方法で、与えられた結び目型内でのエネルギー最小元を探索する事が出来ない。1994年にFreedmann-He-Wangによって、素結び目型においてはエネルギー最小元の存在が示されたが、その際用いられた性質がメビウス不変性である。一方、素でない結び目型においては、数値実験などを根拠にエネルギー最小元は存在しないであろうと予想されている(Kusner-Sallivan予想)が、解決されていない。そのために、メビウス・エネルギーについては、多くの研究者の興味の対象となっている。
解析学の立場からメビウス・エネルギーをより扱いやすい部分に分解できないかを考察し、ある分解定理を得た。個々の分解エネルギーもメビウス不変性を保っており、元のエネルギーが持つ幾何学的な性質は壊していない。また、それぞれの分解エネルギーに対する第1変分・第2変分公式を得た。元のエネルギーに対する変分公式に導出よりはるかに見やすいものになっており、様々な関数空間における評価も得られやすい形に整理する事が可能である。 今年度は、分解エネルギーの第一変分公式の L2表現に関する成果が学術誌に公表された。メビウス・エネルギーの第一変分公式の L2表現では、その主要部に分数冪ラプラシアンが現れる。分解エネルギーについても、第1エネルギー・第2エネルギーの双方の第一変分公式の L2表現に分数冪ラプラシアンが主要部に現れる。これは、第1エネルギー・第2エネルギーの一方が主で他方が従であるというような関係ではない事を意味する。
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