研究実績の概要 |
本研究課題において申請者は、栄養欠乏条件におけるイネの開花促進機構の解明を目指して研究を行った。事前の実験により、イネにおいては窒素、リン酸、カリウムの3大栄養素の中で、窒素欠乏条件でのみ出穂期の促進が観察されたため、研究開始1年目である今年度は通常条件、窒素欠乏条件で198系統のイネ品種を栽培し、それぞれの品種の開花期の促進日数の測定を行った。この198品種は名古屋大学との共同研究で分与していただいた系統で、イネの酒米品種、日本の栽培イネのコアコレクションであるJRCから成る集団である。本集団は既に次世代シーケンサーによってゲノム情報が取得されており、このゲノム情報から得られたSNP情報と表現型データを用いることでGWAS (Genome Wide Association Study)解析が可能である。自然光温室で通常条件、窒素欠乏条件でこれら198系統のイネ品種を栽培し、通常条件における出穂期と窒素欠乏条件における出穂期を比較した結果、75%以上の品種で出穂期の促進が観察された。これらの結果を用いてGWAS解析を行ったところ、一番染色体に顕著なピークが見られたため、周辺の連鎖不平衡が生じている領域内に座乗する遺伝子を抽出し、窒素欠乏条件における開花促進機構に関わる遺伝子の候補とした。 加えて栄養欠乏条件において特定の開花関連遺伝子の発現誘導が起きるかを調べた。Takahashi et al., 2009 PNASの報告では、イネの出穂期は5週目の植物体におけるHd3aの発現量と強く相関していたため、本研究でも同様の条件でHd3aの発現解析を行った。しかし通常、窒素欠乏の2条件で栽培した5週目の植物体において、Hd3aの発現量は顕著な違いを示さなかった。また、さらに早いタイミング (3, 4週目)における発現量比較でも顕著な違いは見られなかった。
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