研究課題
H27年度において、高速誘導ラマン散乱(SRS)フローサイトメトリーという高インパクトなSRS応用の方向性が見つかった事を踏まえ、H28年度は(i) 超高速4カラーイメージングシステムの構築、(ii) システム安定化および取得される画像の品質向上を行った。SRS顕微鏡の新規アプリケーションであるフローサイトメトリーを行うためには、従来のSRSイメージングにおける分光情報取得時間を大幅に短縮することが課題であった。また、これは高速(> kHz)に動く生きた生体試料の深部を像振れなく観察するためにも重要であり、両目的達成のために本課題を解決することは必要不可欠であった。そこでH28年度では、スペクトル取得時間の大幅な短縮化を実現する新規システムの構築と、本システムの動作安定化、及び取得画像の品質向上を行った。具体的には、超高速に波長切り替える光源を構築し、52 ns/colorというスピードでSRSスペクトルを取得するシステムを構築した。また、本システムを用いて高速に動く生体試料を像振れなく可視化し、細胞内部の生体分子の画像化・定量評価を実現した。また、光のビーム径・波面を最適化して、レーザのパワーを2倍強めることで、取得される画像の信号対雑音比を10倍向上した。更に、ファラデーミラーを用いて偏光方向を制御することで、作製した超高速波長可変光源のスペクトルの時間安定性を向上した。その他、大量のデータを高速に保存するFPGAシステムも導入して、漏れのないデータ取得も実現できた。これら成果は、SRSフローサイトメータの構築、及び生体試料の深部SRSイメージングのために、重要なステップであると考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、H28年度では(I)SRS顕微鏡の更なる高速化、(II)生体深部よりのSRS信号検出の高感度化、を予定していた。その結果、高速SRSフローサイトメトリーという新規アプリケーションを見出したため、生体深部の可視化とフローサイトメトリー開発を並行して進めている。これまでに、従来のSRS顕微鏡のイメージング速度を83倍向上に実現し、多数のミドリムシ細胞の集団を解析して、Nature microbiologyに論文を発表した。更に、マルチカラーSRS顕微鏡における波長切替速度を52 ns/colorへ大幅に高速化し、高速に動く生体試料を画像振れなく可視化することに成功しており、高速に動く生体試料内部のイメージングを行えるのみならず、高スループットなフローサイトメトリーも行えるシステムの構築が順調に進んでいると考えている。特にH28年度では信号検出の空間多重化も実証しており、予定(I)の更なる高速化は計画よりも順調に進んでいると考えている。予定(II)については、生体深部よりの信号取得はまだ実証していないものの、本システムの安定化を進めたことや、取得される像の信号対雑音比を10倍程度向上するなど、高品質な画像の取得が可能になってきており、順調に進んでいると考えている。一方で、光散乱を補正するための部材(波面を補正するためのディジタルマイクロミラーデバイス等)の準備を並行して進めている。以上のような進捗があることから、当初に計画した以上に進展していると判断した。
初年度に高速SRSフローサイトメトリーという高インパクトなSRS応用の方向性がひらけた事を踏まえ、本年度では引き続き、SRS顕微鏡の更なる高速化を進めつつ、生体深部のイメージングの研究への応用も進める。H29年度では、更なるSRS顕微鏡の高速化の為に、信号の空間多重検出を行い、信号取得スピードを数十倍程度高速化する予定である。そのためにH28年度にすでにフィルタ回路、アナログ-ディジタル変換回路等の設計・製作を進めてきている。H29年度は、上記目標達成のために現在の光パワーを数十倍以上に増幅する光増幅器の開発を行い、これまでに準備してきたデバイスをシステムに統合して、SRS顕微鏡の更なる高速化を目指す。並行して、生体組織深部でSRS信号を取得するために準備した光散乱を補正するための部材(波面を補正するためのディジタルマイクロミラーデバイス等)を顕微鏡システムに組み込む予定である。これらシステムを構築する一方で、顕微鏡を用いての様々な生体試料のイメージングや、投与した薬物の追跡イメージング等のアプリケーションも順次進めていく。以上の研究計画を遂行するための主要設備は研究室に既存であるものが、高速なデータ計測に用いるオシロスコープや、電子工作に用いるハンダゴテの購入が必要である。また、細々とした光学部品 (レンズ、ミラー、光検出器、カメラ等)や電気素子も購入する必要があり、研究費はこれら器具を購入するために用いる予定である。
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Nature Microbiology
巻: 1 ページ: 16124
10.1038/NMICROBIOL.2016.124