研究課題
蛇紋岩熱水系では、岩石と水の反応で形成される高水素濃度環境が非生物的な有機合成を促進することが期待されており、生命の化学進化の観点から注目されている。しかしながら、蛇紋岩熱水系で観測される最も単純な有機化合物ですら、その具体的な生成機構は明らかでない。本研究では、炭化水素の生成機構の解明を目的として、陸上の蛇紋岩温泉(長野県の白馬八方温泉)において主に炭素の安定同位体比を利用した解析を行った。前年度までの研究で、白馬八方温泉に含まれる炭素数1-5までの炭化水素の炭素同位体組成、およびプロパン(C3H8)の分子内炭素同位体組成のデータを得た。今年度はこれらのデータに基づいて、蛇紋岩温泉における炭化水素の生成機構を考察した。直鎖状の炭化水素に着目すると、炭素同位体比と炭素数の逆数との間に直線的相関関係があることが分かった。そこで本研究では、この観測された炭素同位体分布を説明しうる炭化水素の重合モデルを開発し、理論的な手段を取り入れて一般化を図った。炭素同位体比の直線的相関関係は、C1化合物(炭素原子を一つ含む炭素化合物)がある一定の同位体分別で連続的に付加することで長鎖の炭化水素が生成されると仮定すると、うまく説明することができる。また、白馬八方温泉の炭化水素と同様の同位体的特徴は、深海底の蛇紋岩熱水系でも報告されており、本研究の重合モデルを当てはめられることが分かった。このことから、白馬八方温泉における炭化水素の生成機構は、蛇紋岩熱水系で一般的に起こりうる事象であると考えられる。また、分子内レベルまで拡張した議論を行うことで、分子レベルの同位体情報では識別できない、より詳細な重合過程を見分けられることが示唆された。分析確度の評価や実験による検証などを行う必要があるが、この分子内同位体組成を用いた識別方法は、天然炭化水素の起源を推定する上で将来的に有力な手段になると考えられる。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
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