研究課題/領域番号 |
15J09284
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋本 泰奈 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | ドイツ現代史 / 西ドイツ / 外国人労働者 / ナチズム / 連続性 / 労働行政 / 経験 / 記憶 |
研究実績の概要 |
本研究は、第二次世界大戦下において1,000万人超の外国人強制労働動員をもたらしたナチズムの経験と記憶が、戦後10年にして再開された西ドイツの外国人労働者政策(1955~1973年)にいかなる影響を与えたか、という問題について実証的に検討するものである。 その課題は、戦後西ドイツの外国人労働者政策についてナチ期との連続性と非連続性を人事・制度・運用面において明らかにし、その背景をなすナチズムとの取り組みについて政策の主要な担い手となった労働行政に着目して考察することにある。 2015年度は、関連史料の悉皆調査と専門家との学術交流、日独両国での研究発表を行い、次の新たな知見を得た。(1)労働行政は、第一次世界大戦後から戦後ドイツの外国人労働者政策の歴史的発展において重要な役割を果たし、労働行政の初代指導者F.ジールプは、労働監督や復員、失業対策などの職務経験を通じて外国人就労の制度化を推進した。(2)その制度論は、第二帝政期の外国人労働者問題に遡る民族主義的思想に通じ、制度はナチ期から戦後にも継承された。(3)ジールプは、ドイツの社会政策と労働行政の発展に貢献した一方、ナチ期には強制労働体制に荷担した。戦後西ドイツの労働行政では、前者の側面が強調され、ジールプと密接な関係にあった官吏は、ナチ期と同等の職位に就いた。 これによって、人的・制度的連続性の関連性や未開拓分野に属する労働行政のナチズムとの取り組みの一端が明らかとなった。また、労働行政に着目したことによって、当初の計画以上の進展もあった。すなわち、ナチ期の労働行政史に関する研究プロジェクトに取り組むドイツの独立歴史家委員会(連邦労働・社会省後援)と交流し、最新の国際的研究成果を採り入れながら本研究を進めることができた。その成果は、日本西洋史学会大会とドイツ・トリア大学(歴史学科・近現代史専攻)での客演講義において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
関連史料の悉皆調査を通じて本研究の遂行に必要な史料の収集は概ね終了し、その成果を踏まえた研究発表を日独両国において行った。また、受入機関・所属大学では博士論文の中間審査(リサーチ・コロキアム)を通過し、海外の研究者とのネットワークを活かして研究を着実に進めることができた。ただし、博士論文の構成要素となる個別論文の作成が当初の計画よりやや遅れているため。
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今後の研究の推進方策 |
すでに収集した史料の読解を速やかに進め、引き続き最新の研究成果を踏まえて、これまでの研究成果を文章化していく。また、2016年度は、政策の運用面における連続・非連続性の分析を中心に取り組み、博士論文および個別論文の作成に専念する。具体的には、ナチ期にも外国人労働者政策に関与した労働行政官が、戦後西ドイツの外国人労働者政策においていかなる役割を果たしたか、という点について検討する。その際、同時代の労働市場や国際政治の構造的な状況を視野に入れて、労働行政官が外国人労働者政策に用いた論理や手法についてナチ期との比較分析を試みる。その成果は、口頭発表や論文投稿などを通じて発表していく。
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