今年度は、ドイツの連邦文書館、国立図書館、および連邦雇用庁大学附属図書館での史料・文献調査を継続し、独立歴史家委員会主催のワークショップへの参加や委員会メンバーとの交流を通じて研究を進め、博士論文の執筆に専念した。具体的には、ナチ期以前から外国人労働者政策の制度形成において主導的な役割を果たした労働行政の初代指導者F.ジールプに着目し、ヴァイマル期・ナチ期・戦後西ドイツという3つの時代における外国人労働者政策の連続性について、政策の人事面と制度面を中心に検討した。 ジールプは、1920年代に外国人就労の制度化を推進し、シュライヒャー政権下で発布された1933年1月の「外国人被用者令」に結実し、ナチ体制下では外国人強制労働体制の基礎を築いた。その意味で、ジールプはヴァイマル期とナチ期の人的および制度的連続性を体現した人物であった。 戦後西ドイツでは、ナチ体制に荷担した労働行政官がその責任を十分に問われず再雇用された事例もあり、外国人労働者政策にもナチ期との人的連続性がみられた。それには、ドイツの復興を重視した連合国による非ナチ化の不徹底、労働行政官のナチ期の個人的経験とそれに基づく記憶の多様性、戦後特有の大規模な人の移動による労働市場の混乱と労働行政内の人手不足といった時代背景が深く関わっていた。 さらに、ナチ期にジールプと交流のあった西ドイツの労働行政官は、ジールプの社会政策や労働行政における功績を顕彰し、彼らのもとで1933年法令が1945年以降も適用されたことを考えれば、ナチ期と戦後との制度的連続性と人的連続性との連関性も指摘できる。 今後は、人的・制度的な連続性に大きな影響を与えたジールプ自身の外国人労働者政策論の形成過程とその内容、戦後への継承と修正を、各時代の政治環境や労働市場、社会政策にも視野を広げて考察し、外国人労働者政策の思想的な変遷について明らかにしたい。
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