研究課題
平成27年度では、主に既報告資料に基づいて、これまで不明瞭であった石製容器の生産・流通・消費(副葬)の具体像を検討した。生産と流通に関しては、容器サイズと石材構成、製作技法の観点から分析し、1)まず採石地では、未成品の粗割段階で石材ごとのサイズ上の作り分けがあったこと、2)採石地から加工・消費地へ、未成品のサイズや石材は地域的な階層に依って決定され流通していたこと、3)製品加工時に際しては、同じ器種でも異なる規格の未成品を素材としており、同時に異なる器種でも同じ規格の未成品を素材としていたこと、4)地方墓地へは製品が流通していたこと、5)第1王朝から第2王朝にかけて、未成品の流通網は単純化し、さらに製品加工時のリスク軽減と省力化が図られるようになったことが明らかになった。また、アブ・ロアシュ遺跡を事例研究として、埋葬室の規模と石製容器の器種組成および石材構成を分析し、社会階層間の副葬状況を確認した。その結果、第1王朝時代には、器種組成と石材構成の保有に階層性を見出した。支配者層の墓域であるサッカラやアビドスを頂点とし、メンフィス地域のエリートから地方エリートまで、石製容器の副葬構造は規定されていた。一方、第2王朝時代になると、こうした階層性は消失し、翻って石製容器を副葬するどの社会階層の被葬者もほぼ同じような器種組成(円筒形壷、無把手壷、鉢・皿類、供物台)と石材構成になり、石製容器の副葬構造は定型化すると言える。さらに、この器種組成は、後の第5王朝に出現するミニチュア石製容器と類似する。これらのことから、石製容器は定型的な儀礼用具あるいは葬具の一式として認識されるようになった。これが地方墓地でも見られることから、共通の葬送儀礼への広域的参入があったと考えられる。こうした第2王朝における生産・流通・消費の変化は、中心地域であるメンフィス地域から地方の統制活動の強化を示す。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
西アジア考古学
巻: 17 ページ: 印刷中
Tradition and Transformation in Ancient Egypt: Proceedings of 5th International Congress for Young Egyptologists
巻: 5 ページ: 掲載確定
岡山市立オリエント美術館紀要
巻: 30 ページ: 印刷中
『早稲田大学文学研究科紀要 第2 分冊
巻: 60 ページ: 83-99
http://hdl.handle.net/2065/45123