本年度は、移民の更なる流動化・多様化に伴うホスト社会での適応・生活様式の変容を探るという研究目的のもと、エスニック集団間関係および人と地域の関係に関する研究に新たな知見を加えることを目標に、理論枠組みの設定および事例調査の双方に取り組んだ。 (1)理論枠組みの設定 日本における従来の外国人集住地域研究において、主に住民としての「外国人」の適応・実践や、かれらを受け入れた「日本人」住民の抱える「生活上の問題」に焦点が当てられてきたことを検討した上で、必ずしも地域的「集住」ではない形での「エスニックな」人・モノ・制度の地域的集中のあらわれ方のひとつとして、「新大久保」の観光地化に注目した。結果、集住(居住の集中)が地域的集中のひとつのあり方にすぎないことを確認し、これに限定されない「集まり」の形態を、居住を中心とする生活のための領域という意味での「地域社会」に還元されず独自の意味をもつ「エスニック空間」の成立という形で見出した。 (2)事例調査の進展 ①韓国メディア分析:観光地化した「新大久保」の特徴として送り出し国(特に韓国社会)との関係性に注目し、韓国メディアにおける「新大久保」の取り上げられ方を分析した。結果、「新大久保」をめぐる韓国社会のまなざしの変容の特徴として、再帰的な視線の出現等を見出した。②「エスニック・タウン」モデルとの比較検討:「新大久保」の形成過程や主要商品・顧客の特徴に注目し、エスニック・タウンの生成・発展過程モデルと比較検討することで本事例の特性を浮き彫りにした。結果、本事例を単に「エスニック・タウン」の一類型として捉えることは困難であると推察した。③新宿区大久保地域における資料収集:本年度は、主要な研究対象地である新宿区大久保地域において史料および各種資料を収集し、継続的な参与観察およびインタビュー調査を実施するなど、資料収集を大幅に進展させることができた。
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