研究課題
平成27年度は,当初の計画に沿って,怒り感情と攻撃的反応を誘導する実験室課題の作成と実施に取り組んだ。従来の怒り研究により,複数にわたる不当な扱いが怒りを強めることが示されている。この特性に着目し,社会的拒絶課題(Reijntjes et al. 2011)と不平等分配課題(Kahneman et al., 1986を改変)を組み合わせることで,十分な怒りを引き起こすことができるのかを検証した。怒りの計測には,主観的な評定と客観的な行動測定に加え,生理指標の計測も取り入れ,特に,怒り体験時の変化が報告されている皺眉筋の筋電位(Witvliet et al., 2001)に焦点を当てた。これらの3つの指標全てから怒りの効果を確認することで,課題の妥当性の担保を試みた。実験の結果,行動指標,主観的報告および生理指標の全てにおいて,怒りを反映する報復的行動,回避的姿勢,皺眉筋の活性化が認められたことから,社会的拒絶課題と不平等分配課題の組み合わせは,実験室場面において十分な怒り体験を誘導することができると結論づけることができる。怒り誘導課題の開発に加え,本研究の主目的の一つである怒り制御の個人差に関する神経メカニズムの解明に向けて,個々人の怒り特性が,不当な扱いを加えた他者の認知にどのような影響を与えるのかについても検討した。具体的には,連想記憶課題を用いて,不当な扱いを加えた他者と結びつけられたポジティブ,ネガティブ,およびニュートラルなアイテムの想起成績と(怒り特性との強い結び付きが報告されている)復讐的反芻特性との関係を検討した。その結果,復讐的反芻特性の低い個人ほど,ポジティブな性格特性単語をより多く想起していることが明らかになった。この結果から,復讐的反芻特性は,不当な扱いを加えた他者と結びつくポジティブな情報へのアクセスの個人差と関係していると言えるのかもしれない。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り,怒りを誘導する実験課題の作成に取り組み,行動指標,主観的報告および生理指標の全てにおいて,怒りを反映する報復的行動,回避的姿勢,皺眉筋の活性化を認めることができた。本プロジェクトの肝は,適切な怒り感情の誘導であることを踏まえると,複数の計測指標が一貫した結果を示す実験課題の作成に成功したことは,今後の研究の発展を大きく期待させるものである。当初実施を予定していたfMRIのパイロット実験にまでは至らなかったものの,当初予定をしていなかった怒り関連の筋電図の計測と解析手法を会得したことは,客観的計測が難しい感情研究を進めて行く上で大いに役立つことが予想される。このような進捗状況を踏まえると,本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
怒り誘導課題を用いることで,怒り制御や怒りの記憶形成に関わる脳内神経メカニズムの解明を進める。fMRI計測と神経結合解析を用いて,怒り制御の神経ネットワークの同定に着手し,また,脳刺激法を用いることで,前頭葉の担う怒り制御の詳細な機序の解明を目指す。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Cortex
巻: 71 ページ: 277-290
10.1016/j.cortex.2015.07.025.
Frontiers in Psychology
巻: 6 ページ: 1811
10.3389/fpsyg.2015.01811
http://www001.upp.so-net.ne.jp/t-minamoto/index.html