研究課題/領域番号 |
15J09322
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
前野 万也香 名古屋工業大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 自己不均一化現象 / サリドマイド / 光学分割 / 含フッ素化合物 |
研究実績の概要 |
自己不均一化現象(SDE)を利用したラセミフッ素化合物の光学分割法の開発を目的とし,本研究を行った。具体的には,ラセミフッ素化合物に対しキラル非フッ素化合物を少量添加し,非キラルな相としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて光学分割を行う。この際フッ素化合物が非フッ素化合物のミミック分子として振る舞うため,あたかも光学異性体間の比に差が生じたような系が作り出され,SDEが誘発され光学分割に至る。まず,ある程度SDEの知見が得られている3’-フルオロサリドマイドをフッ素化合物として選択し,非フッ素化合物にはサリドマイドを用い,シリカゲルカラムクロマトグラフィーでの光学分割を試みた。しかし,SDEは起こらず,流出時間によるエナンチオ過剰率(ee)の差は確認できなかった。そこで,アキラルな相をカラムクロマトグラフィーから水溶液へと変更し,光学分割の検討を行った。ラセミ体のフルオロサリドマイドにキラルなサリドマイドを添加し,少量の極性溶媒によく溶かした後,超純水を加え30分撹拌した。撹拌後,析出した結晶とろ液をろ別し,ろ液のeeを測定したところ,eeの上昇がみられた。水溶液中でのSDEによる光学分割が確認できたため,次に異なる置換基をもつサリドマイド誘導体について,本法による光学分割を試み結果,芳香環上に水酸基,アミノ基,フッ素を有するサリドマイド誘導体について光学分割が確認できた。 また,一般的にSDEの規模が大きいと言われるキラルスルホキシド及びトリフルオロメチル基を有するアリルトリフルオロメチルスルホキシドに注目し,カラム上での性質を調査したところ,コアレッセンスが確認できた。この結果より,SDEを増幅する置換基の組合せ方によってはSDE特性を持たない化合物となる可能性があるという知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,具体的に次の三つのパートに分けて行われる。(1)3’-フルオロサリドマイドの光学分割(2)様々な化合物を用いた光学分割(一般性の検討)(3)光学分割ライブラリーの構築:産業的な利用を視野に入れ,実際の医薬農薬などに対し本手法を適用させ,ライブラリー化する。 研究実績の概要で述べた通り,サリドマイド(ミミック分子)を用いた3’-フルオロサリドマイドの水溶液中での自己不均一化現象による光学分割が確認できた。次に基質一般性の拡大として,異なる置換基を有する種々のサリドマイド誘導体を用い,本手法による光学分割の検討を行った結果,これらの基質についても光学分割が確認できている。具体的には,サリドマイドの芳香環上に水酸基,アミノ基,フッ素が導入された誘導体や,実際に多発性骨髄腫の治療薬として使用されているレナリドミドを用い検討を行った。従って,上記三パート中,(1)(2)については順調に研究が進んでいると言える。基質について,初年度は知見の得られているサリドマイド誘導体に焦点をあて研究を進めたが,今後検討する化合物には,医農薬候補化合物となり得る複素環,インダノン,ラクトン系化合物などを用いる。また,化合物の沸点,融点等の物理化学的特性に合わせ,アキラルな相としてカラムクロマトグラフィー,昇華法,蒸留法も選択肢に入れることで,光学分割ライブラリーの構築を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
本手法による光学分割法を確立するうえで,基質一般性や,分割に用いるアキラルな相の拡大は必要不可欠である。上述した通り,複素環,インダノン,ラクトン系化合物を中心に,医農薬品候補化合物について自己不均一化現象による光学分割の検討を進め,アキラルな相についても,蒸留法,昇華法,カラムクロマトグラフィー等用い同時に検討を行う。また,本手法の要である自己不均一化の現象機構を調査することで,光学分割に必要なファクターを見出し,より高度な光学分割ライブラリーの構築を目指す。具体的には,現象機構についてより詳細な考察をするべく,サリドマイド及び各誘導体間の共結晶の作成及びそのX線結晶構造解析や,会合体の溶解性等の調査を行う。また,等温滴定型カロリメトリーや低温NMRによる分析を行い,ラセミフッ素化合物とキラル非フッ素化合物との間にどのような分子間相互作用が働いているか調査する。これにより置換基の効果や化合物の立体構造が自己不均一化現象にどのような影響を与えるかを精査すると共に,本現象を用いた光学分割を,実際の医農薬品を含む幅広い基質へと展開する。
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