自己不均一化現象(SDE)における置換基の影響を精査すべく,様々な化合物について,通常精製に用いるシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる光学分割の検討を行った。本現象のトリガーは,分子間相互作用の強弱による会合体形成である。水素結合性置換基やフッ素のような特異な性質をもつ原子の有無によるSDE規模の変化は,擬エナンチオマーを用いた光学分割へと本現象を応用するにあたり重要な知見になると考えられる。 サリドマイドの窒素原子上にモノフルオロメチル基を有する誘導体を合成し,S体R体の本化合物を任意の割合で混合しS体過剰のサンプルを調製した。調製したサンプルを用いカラムクロマトグラフィーによるSDEの検討を行ったが,SDEは確認されなかった。このことから,サリドマイド誘導体においてはフッ素原子よりも水素結合性置換基であるイミド骨格が本現象における重要因子であることが確認できた。 アルツハイマー治療薬の候補化合物として期待される,α-フルオロケトン骨格を有するフルオロドネペジル(FD)についても,同様にシリカゲルカラムクロマトグラフィーでの光学分割を試みた。結果,本化合物には水酸基やアミノ基のような水素結合性置換基が存在しないが,顕著なSDE特性を有することが明らかとなった。現象機構は次のように考えられる。まず,FDが溶媒あるいはシリカゲルに微量含まれる水と反応し,FD水和物となる。この水和物が他のFD水和物と会合体を形成することで,SDEが起こったと推察する。 これまでに報告されている自己不均一化現象を示す化合物は,いずれもトリフルオロメチル基と水素結合性置換基(アミド,水酸基等)を有している。従って,α-フルオロケトンやイミド骨格のみの化合物にSDE特性があるという結果は,本分野において重要な知見となる。
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