研究課題/領域番号 |
15J09390
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
林中 貴宏 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 初期宇宙論 / 原始磁場形成 / 量子電磁力学 / インフレーション |
研究実績の概要 |
本年度は研究実施計画に基づき、インフレーション中の宇宙を近似的に表現するde Sitter時空中における電場からの荷電粒子生成(Schwinger効果)について研究を行った。 4次元のde Sitter時空におけるスピン1/2を持つ荷電粒子のSchwinger効果について研究を行った。本研究は、Schwinger効果が電磁場自身に与える反作用を問題としているので、これの評価に直接用いることのできる量である誘起電流期待値の計算を行った。 この研究によって、Schwinger効果が誘起する電流の振る舞いが、電荷の持つスピンや電荷の質量によって異なることを見出した。特に、外部電場強度がある特定の値より小さい場合、スピン1/2の粒子が作る誘起電流が、電場と反対向きに流れるという、非常に反直感的な結果を得た。このことは、インフレーション宇宙において場の理論の非摂動効果まで取り入れると、基本的な物理法則を変更することなしに、ある程度大きな電磁場のゆらぎを生成する可能性があることを示唆している。4次元のde Sitter時空では、正準なゲージ場(通常の電磁場)のゆらぎは大きくできないことが知られているため、この可能性はこれまであまり考慮されてこなかったものである。 一方で、誘起電流期待値の計算において必要となるくりこみの問題に関して、異なる手法による計算の結果が一致するかという疑問があったので、すでに断熱正則化という手法で計算されていた4次元de Sitter時空中のスピン0粒子の場合のSchwinger効果による誘起電流の期待値について、Point splittingという手法に基づくくりこみの計算を行った。この研究の結果、上記2つの手法によるくりこみの結果は完全に一致することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに他のグループによって、低次元の空間や荷電粒子のスピンがない場合などの簡素化された系におけるSchwinger効果の研究が行われてきたが、申請者は4次元のインフレーション中のスピンのある粒子の場合についての解析を行い、研究実績の概要に示したような特徴的で非自明な結果を得た。 本来、原始磁場形成理論は、インフレーション中の電磁気学の法則を変更して、強い原始磁場を生成しようと試みるものであった。本年度の研究対象である強い電場からの粒子生成(Schwinger効果)は、この文脈において自然に予期される現象である。 本年度の研究の結果、このような文脈を離れ、通常の量子電磁気学をインフレーション中の時空の中で考えるだけで電磁場を生成する可能性を見出すことができた。 また、研究開始当初からの懸念であったくりこみ手法の妥当性についても、ゲージ不変性と共変性を顕に守る形式での計算を実行し、これまで行われてきた手法の妥当性をある程度示唆する結果を得ることができた。 なお、これらの内容はすでに、二編の論文としてまとめて投稿されている。 以上の理由から、研究実施計画における本年度の目標は概ね達成できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従って、次年度においては、原始磁場形成モデルの再検証を行う。つまり、インフレーション中の電磁場と荷電粒子の相互作用を含んだ形で、原始磁場形成理論を議論する。 これまでの原始磁場形成のモデルは、未検証の高エネルギー物理から示唆されるものなど、基本的には既知の物理法則を一部変更することで、原始の宇宙に強い磁場を作る可能性を追求するものである。しかし、研究実績の概要と現在までの進捗状況で述べたように、このような変更に頼らずに原始磁場生成を議論できる可能性があることがわかったので、このシナリオがどのような原始電磁場を生成することができるかを検証することが興味深い研究対象である。
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