本年度も昨年度に引き続き、de Sitter時空中における電磁場と荷電粒子の理論(QED)の振る舞いについて研究を行った。特に、負の電気伝導という特異な現象と、その物理的起源についての研究を行った。 まず我々は曲がった時空の場の理論においてしばしば用いられている繰りこみ条件(アプリオリに得ることができない物理的な条件)が物理的に妥当だと考えられる条件を満たさないことを見出した。そこで、これに替わる新しい繰りこみ条件を提案し、その帰結を調べた。この条件に基づいて得られる結果が、半古典極限で正しく振舞うようになることが示された。以上の解析の結果、我々はde Sitter時空中の弱い一様な背景電場が負の電気伝導を引き起こし、(通常の電磁気学では見られない)反遮蔽効果が起こることを見出した。我々はこのことについて説明を与えるべく、de Sitter時空の中に静止する観測者が見る球形の地平面(粒子が一旦外に出ると再び入ってくることができなくなる境界)上に電場の効果で正味の電荷密度生成が起こる、という仮説を与えた。我々は、この仮説と量子論的な粒子生成の議論に基づいて、実際に系に生じる電流を計算し、これが負になる、つまり電気伝導度が負であることを示した。また、この電流の計算結果が、上述の曲がった時空の場の理論における計算と一致することを示した。 なお本年度行った研究は、当初の研究計画とは異なるものである。その理由は、この負の電気伝導現象自体が(i)新しい磁場生成理論のシナリオの可能性を示唆するものであり、また(ii)重力系の熱力学など、精力的な研究が行われている他分野との関連があるためである。
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