研究課題
金星・地球・火星の大気量・組成は大きく異なり、大気形成・元素循環・散逸過程を反映している。本研究では大気進化の歴史を反映する窒素・希ガス存在量やその同位体組成に着目して研究を行った。天体衝突・大気散逸・火山性脱ガス・惑星間塵の流入を考慮した同位体組成進化モデルを開発し、計算結果を火星探査や火星隕石から得られた同位体データと比較することで火星大気進化に制約を与えた。結果、火星は40億年前の時点において、約0.5気圧以上の大気を保持していたことを突き止めた。原始惑星系円盤の中で形成される地球型惑星は、その重力によって周囲のガスを捕獲する。このガス捕獲過程は系外惑星スーパーアースの形成過程や地球の水素獲得過程として重要視されているが、ガス捕獲量を決定するメカニズムは未解明である。私はこの円盤ガスの流入・流出過程について、3次元流体計算による研究を行った。本研究では特に、ガスの放射冷却過程に着目した。その結果、放射冷却時間が十分に短い場合のみ惑星大気への円盤ガス流入・流出が起こることがわかった。この成果は、惑星大気・流入ガスの温度構造を詳細に扱う必要性を示唆している。地球の海水量は惑星質量の0.02%程度であり、地球に海洋と陸地が存在するほどよい量となっている。しかし、地球マントルにはこれを上回る水量が含まれており、水循環過程が現在の海水量を決定する上で重要である。本研究では、水素同位体比を組み込んだ海・地殻・マントル間の水循環モデルを構築した。モデル計算結果と海や中央海嶺玄武岩、スラブの水素同位体比との比較から、現在の海水量はマントルからの脱ガスとスラブにおける含水鉱物のマントルへの沈み込みが釣り合う定常状態にあることを解明した。また、38億年前の海の水素同位体比の比較から、当時の地球においては定常状態が成り立っていなかったか、異なる水循環過程があったことを突き止めた。
2: おおむね順調に進展している
地球型惑星の大気進化の理論的研究、地球型惑星の大気形成過程の理論的研究、地球の水循環の理論的研究を着実に行っている。2015年度注力していた火星の大気進化の研究はその成果を論文にまとめ、学術誌に投稿済みである。同様に、2015年度に開始した地球型惑星の大気形成の研究も進展し、その成果をまとめる段階にある。また、2016年度からは新たに地球の表層-マントル間の水循環の研究を開始している。
研究はおおむね順調に進展しているため、引き続き各研究を進めていく。最終年度のため、大気形成過程の研究、大気-マントル共進化の研究ともに成果を論文としてまとめる。その知見を統合し、研究課題である地球型惑星の大気形成過程・マントルとの共進化過程の総合的な理解を目指す。
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