本研究の3年間での到達目標は、これまでの美術史の認識について考え、その問題点を見直し、新しい美術史の解釈と叙述を作り出すということであった。そうすることにより、宗教や民族、人間集団といった、これまでの歴史叙述の前提となっていた既存の枠組みを問い直すことができると考えるためである。それは、受入研究者が提唱してきた、比較することによって文化の違いを強調するものではない研究のありかたである。そしてまた、人々が創りだした「工芸」に注目した歴史記述の新たな視点を提供することである。そうすることによって、地球上すべての人間が、同じ地球という場所に帰属しているという意識を高めることができると考えるからである。この大きな研究テーマに対し、「日本美術」という枠組みをつくったうえで比較検討をおこなってきたジャポニスム研究に対する疑問が、上海の万国博覧会の展示を契機として沸き上がったこと、そしてフランスの美術収集家による「極東コレクション」がいかに形成されたかについて、上海高等研究院でおこなわれた国際シンポジウムで発表することができ、現地の研究者と活発な議論ができたのは、ひとつの大きな成果であったといえる。最終年度において、「これまでの歴史叙述を刷新して、新たな研究軸を提唱する」ところまではいかなかったが、これまでの調査結果をまとめて分析し、それが歴史的にどのような意味を持つのかということまで考えることができた。
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