研究課題
申請者は、緑藻細胞内に共生するリケッチア(通称 “MIDORIKO”)のゲノム情報を用いて、細胞内共生体遺伝子水平伝播の段階的発展によってバクテリア共生体がホストによる制御を受ける過程を解明し、ミトコンドリアのオルガネラ化進化過程を推測することを目的として研究を行っている。本年度は「MIDORIKOゲノム配列の解読」を実施した。単細胞緑藻カルテリア(Carteria cerasiformis)からMIDORIKOを単離濃縮し、抽出したDNAを高速シーケンサによって解読した。得られたDNA配列から、混入した緑藻由来の配列を除去し、80か所以上存在するリピート領域に由来するギャップ・ミスアセンブル領域の修正を行った。結果、MIDORIKO染色体に相当する1本の環状DNA配列(1.5 Mbp)と、3本のプラスミド様環状DNA配列(121/75/61 kbp)を得た。ゲノムDNA配列から予測されたペントースリン酸経路において、近縁リケッチアでは失われている遺伝子の一部が残存していることが判明した。遺伝子を失ったリケッチアは節足動物をホストとするため、MIDORIKOにおける遺伝子の残存は緑藻ホスト環境に特異的である可能性がある。一方、MIDORIKOゲノムDNA配列中に、近縁リケッチアのヒト感染に関連する遺伝子の類似配列を発見した。MIDORIKOが他の細胞に感染した例はないが、この結果はMIDORIKOの細胞感染能力を示唆し、さらに、MIDORIKOと緑藻細胞の共生が比較的最近生じたという予想(Kawafune et al. 2015 PLOS ONE)を裏付ける。解読したゲノムは、本課題の今後の研究に用いるとともに、節足動物をホストとし哺乳類への感染性を持つリケッチア科バクテリアとの比較を行うことで、ホスト特異性や病原性のメカニズムと起源の解明に寄与する。
3: やや遅れている
本年度完了予定であった「MIDORIKOゲノム配列の解読」は、ゲノムの品質向上のための作業が予定より増大したため、やや遅れている。ゲノム解読過程で得られたMIDORIKOのDNA配列には、トランスポザーゼをコードしたリピート領域が70か所存在する他、配列の重複が10組存在したため、ミスアセンブル領域やギャップが多数生じていた。近縁リケッチアとMIDORIKOの遺伝子の順序が大きく異なっているため、近縁リケッチアのゲノム配列を元に機械的に修正する方法は使用困難であった。よって、配列の修正はリードデータを元に手作業で行い、修正不可能な部分はPCRとサンガーシーケンスにより解読した。また配列解読後は、微生物アノテーションパイプラインサービスMigap(国立遺伝学研究所)により機械的に同定された遺伝子を手作業でチェックし、偽遺伝子を除去している。近縁リケッチアには見られないユニークな遺伝子や、逆に近縁リケッチアの遺伝子に極めて類似した配列を持つ偽遺伝子が多く発見されたため、それらの同定はデータベースとの類似度に基づく機械的アノテーションのみでは不十分である。以上の作業により、他2種の緑藻由来のMIDORIKOについてはゲノム解読の実施には至らなかったが、最初の1種について、ほぼ完全長のゲノムDNA配列と正しく同定された遺伝子情報が得られたため、今後の作業効率は向上すると考えている。
今後は、得られたMIDORIKOゲノム配列を元に、緑藻ホストへの共生に関連する遺伝子の獲得と損失を明らかにし、本年度の成果と合わせて発表するとともに、他の緑藻プレオドリナ(Pleodorina japonica)とボルボックス(Volvox carteri)をホストとするMIDORIKOのゲノム配列を、本年度得られたカルテリア由来MIDORIKOゲノム配列を鋳型として解読する。また「ホスト核ゲノム配列の解読」を行い、MIDORIKOからホスト核に転移した遺伝子配列を探索する。ホスト緑藻3種から抗生物質と熱処理によりMIDORIKOを除去し、核ゲノムDNAを高速シーケンサーにより解読、配列を決定する。高速シーケンサーは、当初の予定であったillumina MiSeqよりも長いリードが得られるPacBioが利用できるようになったためそちらを用いたい。核ゲノム上のMIDORIKO遺伝子配列を探索し、発見されたMIDORIKO遺伝子配列は真核生物性の構造の有無を調査する。
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Cytologia
巻: 80 ページ: 513-524
10.1508/cytologia.80.513