V系水素化物の一つであるβ相の形成温度に及ぼす合金効果を水素中その場XRD装置を用いて評価した。β相の形成温度は、Feを添加することで純Vに比べて上昇し、Al、Ruを添加することで大きく低下した。したがって、AlとRuは水素化物の不安定化の観点から、低温作動型合金膜に有利に働く添加元素と言える。特にRuは、水素溶解特性、水素の拡散性、水素化物の形成温度の3つの特性すべてに有利に働く有望な添加元素であることが明らかとなった。 さらに、実験的に得られたβ相の形成温度を第一原理計算により考察した。水素固溶体相(α相)とβ相を想定したモデルとして、水素原子Hを合金元素Xの第一近接の四面体サイト(T1サイト)と八面体サイト(O1サイト)に挿入したモデル(T1モデル、O1モデル)で計算を行った。Feを添加した場合にはT1モデルが、Ruを添加した場合にはO1モデルがより不安定化する傾向が見られた。こうした合金効果によって、β相の形成温度はFeを添加することで上昇し、Ruを添加することで低下したと考察できる。 また、V-Fe-Al三元系合金に関して、各特性の調査を行った。水素溶解特性に関しては、二元系合金におけるFeとAlそれぞれの合金効果の線形結合とほぼ一致した。一方、水素の拡散性に関しては、二元系合金におけるAlの合金効果とは異なる傾向を示し、低濃度のAlの添加から水素原子の易動度が低下する傾向が見られた。しかしながら、組成を制御すれば、低温域で純Vよりも高い水素の拡散性を示した。さらに、水素化物の形成温度も純Vに比べて低下した。したがって、V-Fe-Al三元系合金もV-Ru系に加えて有望な合金系であることが明らかとなった。 以上のように、本年度は水素の拡散性、水素溶解特性、水素化物の形成温度を二元系および三元系合金について総合的に評価し、すべての特性に優れる合金に関する知見を得た。
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