研究課題
平成28年度は、抗体結合ペプチドZ33の構造活性相関研究および効率的なペプチド薬物複合体の合成研究を展開した。Z33の分子モデリングの結果から、グルタミン酸残基が抗体のリジン残基に近接していることが示された。そこで、本部位へ変異アミノ酸を導入することにより、相互作用の強化を期待し、構造を誘導した。しかし、合成した各誘導体はZ33ペプチドと比較して抗体結合能が低下する結果となった。すなわち、天然のグルタミン酸の構造においてもリジン残基との相互作用が十分であることが示唆された。また、他のグループによりすでに報告されているが、分子内環化体に関しても合成、評価を行っている(Starovasnik et al., PNAS USA, 1997)。また、ADC調製のためには、Z33-薬物複合体を効率的に合成する必要がある。昨年度はNpys樹脂を用いた新規固相ジスルフィド架橋法により、難水溶性薬物と水溶性ペプチドZ33の架橋体合成を報告している。本年度は、収率向上をめざし、反応条件(pH、濃度、塩濃度など)を検討した。Z33 以外のペプチドにおいては、一段階目としてCH3CNを溶媒として用い、二段階目に40% CH3CN/50 mM酢酸緩衝液(pH5.0)を溶媒として用いる場合に反応が最も早く進行し、効率的にペプチド-薬物複合体を獲得することができた。しかし、本条件をZ33ペプチドに適応したところ、期待に反し、ジスルフィド交換反応の進行が遅く、ホモジスルフィドダイマーの生成が共に進行してしまった。これはZ33ペプチドの分子量が大きく、反応点の遭遇確率が低いためと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は、昨年度に引き続き、抗体結合ペプチドZ33の分子モデリングから得られた情報に基づき、Z33ペプチドの構造活性相関研究を実施した。表面プラズモン共鳴による抗体結合能評価の結果、一残基減らした32残基でも高い抗体結合能を維持することが明らかとなり、今後の構造活性相関研究が容易になった。また、グルタミン酸残基とリジン残基間の相互作用が示唆され、共有結合形成部位として有力な候補であることが明らかとり、今後、研究を展開するうえでの重要な知見となった。加えて、昨年度開発した固相ジスルフィドライゲーションによるペプチド-薬物架橋体合成法の反応条件を種々検討しており、収率向上に向けた多くの知見が得られたこれらのことから「おおむね順調に進展している」と評価した。
平成28年度の研究結果から、Z33ペプチド(FNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNAKIKSIRDD)は32残基のペプチドにおいても抗体結合能を維持することが示された。次年度は、両末端のアミノ酸残基を削除したペプチドを合成し、抗体結合能を評価することで結合能を維持する最小配列を同定する。また、Z33ペプチドのグルタミン酸残基が抗体のリジン残基と十分に相互作用していることが示唆されたため、本アミノ酸残基の側鎖構造を抗体との共有結合形成部位として構造誘導を行う。しかしながら、Z33ペプチド中にも2つのリジン残基が存在するため、反応性の高すぎる架橋構造では分子内反応に消費され、失活してしまう可能性が高い。そこで、Z33ペプチドの構造活性相関研究によりリジン残基を非求核性の構造へ誘導する。また、グルタミン酸残基部位に導入する架橋構造としては、N-ヒドロキシスクシンイミドエステルやトリアジンエステルなどの活性エステルを検討する。得られたZ33ペプチド誘導体は抗体(ハーセプチン)と緩衝液中にて混合することで架橋反応を実施し、反応は疎水性相互作用クロマトグラフィーにて追跡する予定である。また、PlinabulinとZ33ペプチド誘導体の架橋反応に関しては、前々年度にすでに報告している「Npys樹脂を用いた固相ジスルフィド架橋法」により実施する。平成28年度に報告した反応条件(pH、濃度など)をさらに改良し、ホモジスルフィドダイマーの生成を抑制できる条件を探索する。最終的にPlinabulin-Z33ジスルフィド架橋体を用いることで、Plinabulinを担持した抗体薬物複合体の獲得をめざす。
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Bioconjugate Chem.
巻: 27 ページ: 1606-1613
doi: 10.1021/acs.bioconjchem.6b00149.