先行研究において、足関節の周期運動中に、その動作の局面に対応して、手足が同じ方向に動かしやすくなるように手関節筋の皮質脊髄路の興奮性が変調することが知られている。この現象は、上述の手足が協調して動くときに同調しやすい現象の神経基盤の一端と考えられている。しかしながら、手関節周期運動が足関節筋を支配する神経活動を動作局面依存的に変調させるかどうかは不明であるため、この点を検討する実験を行った。実験では、健常者を対象に、経頭蓋的磁気刺激による運動誘発電位(MEP)、および経皮的脊髄電気刺激による脊髄反射をそれぞれ足関節背屈・底屈筋、足指屈曲筋、膝関節伸展・屈曲筋から記録した。運動課題は、手関節伸展・屈曲の周期運動であった。伸展局面および屈曲局面においてランダムタイミングでMEPおよび脊髄反射を記録した。その結果、いずれの筋においてもMEPおよび脊髄反射の手関節動作局面に対応した変調は見られなかった。上記の足関節周期運動中の手関節筋皮質脊髄路の変動を捉えた研究結果と合わせて考えると、手関節と足関節間の動作周期依存的な相互作用は、下肢から上肢においては影響があり、上下肢の同調が促進されるが、その逆はない可能性が示唆される。
また、別実験において、上肢の等尺性の筋収縮のイメージが下肢筋の脊髄反射に及ぼす影響についても検討する実験を行い、同側のヒラメ筋、前脛骨筋、腓腹筋においては安静時よりも脊髄反射の振幅が増加し、短趾屈筋、大腿直筋、対側ヒラメ筋においては変調がみられなかった。このことは、手関節筋伸展の運動イメージによって変調する脊髄反射興奮性は、同側の下腿筋のみであり、筋特異的な変調であることを示している。この実験結果については、Neuroscience Letters誌に掲載済みである。
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