本研究の目的は、アブラムシの社会性進化に警報フェロモンがどのように影響するのかを明らかにすることである。この目的を達成するためには、まず最初に社会性段階の異なるアブラムシ種が含まれる分類群で警報フェロモンの有無を明らかにし、次に警報フェロモンを進化させている種については警報フェロモンを構成している化学物質を明らかにする必要がある。また、警報フェロモンがどのように用いられているかを含む社会性アブラムシの生態についても明らかにする必要がある。これらについて平成27年度は以下の成果を得た。 1. 自身の先行研究によって警報フェロモンを進化させていることが明らかになっている真社会性アブラムシのササコナフキツノアブラムシにおいて、警報フェロモンがどのような物質によって構成されているのかガスクロマトグラフ質量分析計を用いて調べた。その結果、これまで多くのアブラムシで警報フェロモンの主物質として報告のあった(E)-β-ファルネセンは検出できず、異なる化学物質で構成されていることが明らかになった。 2. 真社会性アブラムシのヒエツノアブラムシが警報フェロモンを進化させているかを調べた。ヒエツノアブラムシの腹部を物理的に刺激した結果、非常に低い頻度ではあるがササコナフキツノアブラムシと同様に腹部背面に存在する角状管から赤褐色の液体を放出した。このことは、ヒエツノアブラムシが警報フェロモンを進化させていることを示唆している。 3. ササコナフキツノアブラムシの防衛個体のもつ捕食者に対する防衛能力の地理的変異について調べた。その結果、捕食者との相互作用の強い集団ほど防衛個体の防衛形態形質が肥大化しており、さらに捕食者に対する防衛能力も高いことがわかった。
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