研究課題
本研究はヒトの移動運動(歩行走行)の速度を制御する神経機構の特徴解明を目的としている。当該年度は以下2点を実施した。1)「歩行走行の速度制御を司る脊髄神経機構」:前年度の研究により、歩行と走行では使われる脊髄神経モジュールが異なること、さらに歩行においては遅い歩行と早い歩行でも神経制御様式が異なることが明らかとなっていた。当該年度はこの研究のうち、神経モジュールそのものの速度依存性を報告した研究が英科学誌Scientific Reportsに報告した。次に神経モジュールの速度に依存した変化が脊髄運動ニューロンへ与える影響を検討した研究が英科学誌Proceedings of the royal society B: Biological sciencesに報告した。2)「大脳皮質による歩行走行の速度制御」:上記の脊髄レベルの研究に加えて、歩行速度制御に大脳がいかに関与しているかを調べるために脳波を用いた研究を進めた。従来、脳波計測中に被験者が動くと著しいアーチファクト(ノイズ)が混入するため、歩行動作中の脳波計測は行われてこなかった。そこで、ノイズ混入を最小限にするために、被験者の動作に付随した計測機器の振動を防ぐ処置、頭皮と電極の密着度を高める処置を行い、 歩行中でも脳波信号を計測可能な実験環境整備をおこなった。次に、近年考案された、脳波から動作由来のノイズ成分のみを統計的に取り除く解析アルゴリズムを応用することで、歩行時のアーチファクトを減少させることに成功した。次にヒトの移動運動における皮質と筋活動の関係を検討のために、計測した脳波と筋電図から皮質-筋間の同期的神経活動(脳波筋電図コヒーレンス)を推定するプログラムを作成した。
1: 当初の計画以上に進展している
1)脊髄レベルにおいての歩行・走行の筋活動制御様式の移り変わり関しては研究をほぼ完了した。特筆すべき実績として、当該年度に国際学術誌に2本の論文が掲載された。2)大脳皮質レベルの研究では、歩行走行中の皮質活動を計測するために脳波計測を予定しており、動作中ノイズ処理が急務であった。この問題は、近年考案された脳波から動作由来のアーチファクト成分のみを統計的に取り除く解析アルゴリズムを応用することで、歩行時のアーチファクトを減少させることに解決した。さらに、皮質-筋間の同期的神経活動(脳波筋電図コヒーレンス)解析プログラムの作成もほぼ完了した。以上2点の大きな進展があった。
今後は、当該年度に確立した歩行中の皮質-筋間の同期的神経活動解析手法を用いて、まずはヒトの移動運動における皮質の関わりを検討し、その後に移動運動速度に依存した皮質活動の変化についての実験を予定している。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (1件)
Proceedings of the Royal Society of London B: Biological sciences
巻: 284(1851) ページ: 20170290
10.1098/rspb.2017.0290
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 36275
10.1038/srep36275