研究課題/領域番号 |
15J09611
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
横内 智行 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | スキルミオン / キラル磁性体 / 非線形伝導 / 物性実験 |
研究実績の概要 |
本研究ではスキルミオンと呼ばれる磁気構造の動的性質の解明を目的としている。スキルミオンは渦上のナノスケールのトポロジカルな磁気構造であり、低電流密度による駆動が可能である。しかし、これまで電流駆動の報告は限られており、電流駆動下での物性のさらなる解明が必要である。またスキルミオン物質の一つであるB20型MnSiでは静水圧下でpartial order(PO)相と呼ばれる、動的な性質を持つトポロジカルな磁気相の存在が指摘されている。このPO相の磁気構造はスキルミオンと同様のトポロジーを持つことが指摘されているが、物理的性質が未解明な部分が多く、スキルミオンとの関係を含め共通的な見解が得られていないのが現状である。 本年度はまずスキルミオンの電流駆動下における新たな輸送応答の解明を行った。具体的には、MnSiにおける電流の二次の非線形ホール効果の測定を行った。非線形ホール効果はスキルミオン相でのみ有限の値を示し、明確な閾値電流と周波数依存性があることが明らかになった。これらは非線形ホール効果がスキルミオンの電流駆動と関係していることを示唆している。 またPO相での物理的性質の解明のために、電流磁気カイラル効果と呼ばれる輸送現象の測定も行った。電流磁気カイラル効果は、抵抗値が磁場と電流が平行か反平行かで異なる現象でカイラル結晶において許容される。MnSiの常圧下では、この電流磁気カイラル効果が転移温度直上において磁気秩序相に比べ顕著に増大する。これは転移温度直上でのスピンゆらぎによる非対称な電子散乱の寄与と考えられる。本年度はMnSiのPO相でも常圧での転移点直上で観測されたものと同程度の大きさの電流磁気カイラル効果が生じることを明らかにした。これはPO相の動的な性質に起因するスピンゆらぎによって電流磁気カイラル効果が生じることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記のとおり本研究ではトポロジカルな渦状の磁気構造であるスキルミオンの動的性質の解明を目指している。具体的にはスキルミオンの電流駆動時の物性の解明と、動的なトポロジカル磁気相であるpartial order相とスキルミオンの関係の解明である。本年度は前者に対してはスキルミオンの電流駆動が誘起する非線形ホール効果の観測に成功し、スキルミオンの電流駆動時の物性の解明に貢献することができた。さらに後者に対しても、partial order相での電流磁気カイラル効果の観測に成功し、partial order相での動的性質に対する知見を輸送現象の観点から得ることができた。これらの成果はスキルミオンの動的性質の解明という本研究の目的の大枠を達成しているといえる。さらに本年度までに得られた成果をもとに、スキルミオンの動的性質のさらなる解明に向けた実験の準備を順調に行っており、29年度も滞りなく実験を進めることのできる状況である。以上の理由から、研究の進行状況は当初の計画以上に進んでいるといえる。 さらにこれらの成果は、学会発表や論文執筆によって、積極的に外部へ成果を発信している。本年度は国内学会2件、国際学会1件の発表を行うとともに、論文も1件投稿中1件準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続きスキルミオンの動的性質の解明を行う。特に本年度までに二つの非線形伝導現象、すなわち非線形ホール効果と電流磁気カイラル効果が、スキルミオンの動的性質を反映することが明らかになった。これまでの測定はB20型MnSiに限って行ってきたが、今後はこの現象の測定を様々なスキルミオンが発現する物質に拡張する。そして、スキルミオンの動的性質の統一的な理解を目指すとともに、スキルミオンを用いた次世代素子への応用のための物質設計の指針を構築することを目指す。 さらに、これまでに得られた知見をもとにスキルミオンの動的性質を別の実験手法を用いてさらに解明していく予定である。具体的には、スキルミオンの電流駆動下およびpartial order相での電気抵抗のノイズスペクトルの測定を計画している。これにより、これまでの実験では得られなかった特徴的な周波数の情報を得ることができると期待できる。 また、得られた研究成果については積極的に学会発表および論文投稿を行うことで外部対する成果公表・情報発信に努める。
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