研究実績の概要 |
本研究は、鉄系超伝導体が持つと考えられる新奇な超伝導ギャップ構造(多ギャップ性、符号反転s波対称性)に着目し、[A]超伝導バルクの位相に敏感な「磁束フロー抵抗率の面内磁場角度依存性測定」、[B]多ギャップ性に起因する「非整数磁束量子の解離現象の観測」という新たな超伝導ギャップ構造探索手法の確立を目的としている。 当初の研究実施計画では、初年度は主に課題[A]についての研究を展開する予定であったが、磁場角度依存性測定用空洞共振器のための特殊な金属加工を要する部品の調達に大幅な時間を要してしまった。そのため、測定試料となるFe(Se,Te)薄膜の超伝導特性の評価、Fe(Se,Te)単結晶・β-PdBi2単結晶の合成および超伝導特性評価を行なった他、主に2年目に実施する計画であった課題[B]についての研究計画を前倒しで実施した。 具体的には、上記の測定試料に対するゼロ磁場極限および8テスラまでの磁場中におけるマイクロ波表面インピーダンス測定を行ない、これら物質の超伝導ギャップ構造を評価した。その結果、Fe(Se,Te)においては不純物散乱によるギャップレス状態、β-PdBi2においては2つ以上の等方的な超伝導ギャップを持つと解釈できる結果が得られた。これらの結果は、国内外の学会等で報告した。これらの結果は、本研究の目指す新たなギャップ構造探索手法による測定結果の定量性を検証する比較データであり、本研究には欠かせない結果である。 また、[B]に関して、マイクロ波照射下での電流-電圧測定用プローブを設計・作製し、Fe(Se,Te)薄膜に対して電流-電圧特性測定を行なったが、現時点での測定パラメータにおいては非整数磁束量子の解離と思われるような振舞いは見られておらず、今後、異なるパラメータ下での測定を継続する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉄系超伝導体で期待される新奇な超伝導ギャップ構造を探る新たな方法論を確立するという最終的な目標に向け、1年目では以下を実施した。 (A)磁束フロー抵抗の磁場角度依存性測定によるギャップ位相探索法の確立に関して (A-1)測定に用いる予定の多バンド超伝導体FeSe,FeSe0.4Te0.6,β-PdBi2の各単結晶を合成し、超伝導特性の評価を行った。(A-2)磁場角度依存性測定に向けての予備測定として、合成した単結晶の磁束フロー抵抗(面直磁場)および超流体密度を測定し、これら物質の超伝導ギャップ構造を調べた。(A-3)ベクトルマグネット下で使用できる空洞共振器を設計し、金属加工を行なった。現在、装置の組み立て作業を行なっている。 (B)マルチギャップに起因する非整数磁束量子の解離現象の観測 (B-1)マイクロ波照射下での電流-電圧特性測定のための低温装置を設計・作製した。(B-2)作製した装置を用い、FeSe0.4Te0.6薄膜に対して、電流-電圧特性測定(パルス電流、温度4.2 K、磁場0-1 T、照射マイクロ波 ~10 GHz)を行なった。現時点で、解離現象で期待されるようなシャピロステップ等の構造は、この条件下では観測されておらず、今後、異なる条件下での測定を行なう予定である。 当初の研究実施計画では、初年度は主に課題(A)についての研究を展開する予定であったが、磁場角度依存性測定用空洞共振器のための特殊な金属加工を要する部品の調達に大幅な時間を要してしまった。その分、測定試料となるFe(Se,Te)薄膜の超伝導特性の評価、Fe(Se,Te)単結晶・β-PdBi2単結晶の合成および超伝導特性の評価や、主に2年目に実施する計画であった課題(B)についての研究計画を前倒しして実施した。したがって、2年間の計画全体でみた進捗としてはおおむね順調であると言える。
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