研究課題
本研究では下部マントル(>24万気圧)のレオロジー解明に向けた高圧実験を主とした研究を行うことが目的である。(1)川井型D-DAI装置を用いた下部マントル最主要鉱物であるブリッジマナイトの流動則の決定ケイ酸塩ペロブスカイトであるブリッジマナイト(以下Brg)は地球下部マントルの最主要鉱物である。そのBrgの流動則については、これまでその場観察による粘性率の直接測定は報告されていない。そこで、本研究では、変形型DAI(D-DAI) 型高圧変形試験機に川井式(6-8式)を組み込むことにより、下部マントル条件でのBrgの粘性のその場測定を可能とした。実験にはSpring-8、BL04B1に設置されているSPEED-Mk.IIを使用した。二次元X線回折像及び試料全体のX線ラジオグラフィー測定のために、コーン(5°)またはスリットを付けたWCアンビルをX線パス上に限り使用した。試料の長さの測定にはX線ラジオグラフィーを用いた。応力測定にはBrgの(111)(020)(112)のX線回折線を使用した。ヒーターにはLaCrO3を使用した。上下の変形用D-ramの送り速度は、1-4um/minとした。すべての応力歪その場観察変形実験において、一定速度での変形(定常変形)が観測された。本研究で初めて、ブリッジマナイトの粘性率の測定が可能となった。過去の研究では、装置(変形型DIA型装置(6-6式加圧方式)および回転式ドッリカッマー装置)により、大きく粘性率が異なることが知られている。本研究は、変形型DIA型装置と似たセル構成となっている。本研究結果と、同様の装置(変形型DIA型装置)を用いた研究結果とを比較すると、下部マントル鉱物であるBrgの粘性率は遷移層鉱物に比べ大きくなる。一方で、回転式ドリッカマー装置と比較すると下部マントル鉱物は遷移層鉱物と比べ柔らかくなるという結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
1年目の計画は、以下の通りであった。高輝度放射光施設SPring-8を用いて、超高圧下(~50 GPa)の粘性率の直接測定技術の確立に重点を置く。技術の確立のために以下の構成を基としてセル構成、ガスケット素材、アンビル素材の最適化を行う。実験にはSPring-8のBL04B1に設置されているD-DIA型プレスであるSPEED-Mk.IIを使用する。圧力発生(最大>50GPa)、及び、粘性率の直接測定(歪マーカーの観察及び二次元X線回折像の取得)に必要な条件をすり合わせることで超高圧下での粘性率の直接測定実験技術の確立を目指す。研究業績の概要にあるように、一年目である本年度では、下部マントル圧力条件(>24GPa)において、粘性率の直接測定技術の開発を行った。その成功例として、最初のデータとなるMg端成分におけるBrgの粘性率の測定を行うことができた。これは、当初予定していた超高圧下での粘性率の直接測定のための技術開発が十分に達成したことを意味している。そのため、研究はおおむね順調に進展していると判断した
二年目となる平成28年度には以下のことを目指す。1年目に確立した技術を基に、Mg端成分であるMgSiO3-Brgの粘性率の直接測定を行う。下部マントルは幅広い温度圧力領域(1600~2200℃、24~136GPa)にわたる。そのため、下部マントル全域の粘性構造を求めるためには、Brgの粘性率の温度圧力依存性は最も重要なパラメータである。そこで、最初に~35GPaまでのMg端成分のMgSiO3-Brgの粘性率の直接測定を以下の二つの条件で行う。1.温度圧力一定化で歪速度・粒径条件を変化させることで、応力粒径依存性を決定し、変形機構を決定する。2.歪速度と粒径一定条件下で、温度圧力条件を変化させることで温度圧力依存性を示す活性化エネルギー、活性化体積を決定する。また、三年目となる平成29年度には以下のことを目指す。2年目に決定したMgSiO3-Brgの粘性率を基に、下部マントル条件でのFe3+、Al3+イオンのBrgの粘性率に与える効果を明らかにする。出発物質には予め合成したFeまたはAl、Fe+Alをそれぞれ含むBrg多結晶焼結体を用いて、Fe3+イオンとAl3+イオンそれぞれがBrgの粘性率に与える効果を決定する。実験条件は下部マントル上部温度圧力条件(25 GPa,1600℃)とする。変形実験後にFeの二価三価比を決定することで、組成の変化(特に3価のイオン)が与えるBrgの粘性率への影響を詳細に確定する。水の影響を排除するため、無水条件に制御する。本研究結果を基に、地球物理学的観測で報告されている深さに伴う粘性率の増減の要因、及び、1000 kmでの沈み込むスラブの滞留の原因について議論を行う。最後に、下部マントル全域でのBrgの粘性率を求め、下部マントルの粘性構造を構築する。
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