研究課題
本研究では下部マントル(>24万気圧)のレオロジー解明に向けた高圧実験を主とした研究を行うことが目的である。そこで、今年度、高圧下での下部マントル鉱物の物性を調べるために下部マントル最主要鉱物のケイ酸塩ペロブスカイトであるブリッジマナイト中の鉄の不均化反応の圧力依存性について研究を行った。地震学的観測によって、下部マントル最上部(深さ670~710㎞付近)では低速度領域が観測されていない一方で、下部マントル上部(深さ730㎞付近)では低速度領域が観測されている。この下部マントル中の低速度層の要因は、水によるケイ酸塩の部分融解である可能性が指摘されている。ケイ酸塩ペロブスカイトであるブリッジマナイト(Brg)は、鉄の不均化反応を示し、この金属Feが多量の水を保持しうることが知られている。そのため、下部マントル中のBrgのレオロジーとともに、Brg中の鉄の不均化反応の圧力依存性について明らかにすることは、地震学的観測を説明し、下部マントルのレオロジーを調べるうえで最重要事項である。そこで、本研究では、閉鎖系条件下においてAl濃度の異なるBrgの合成実験を行った。回収試料の走査型電子顕微鏡観察及びAPSでの放射光メスバウアー測定を行うことで、Brgにおける鉄の不均化反応の圧力依存性を明らかにした。微細組織観察により、Al-free条件では、金属Feは観察されなかった一方で、Alを含む系では金属Feが観察された。また、Alを含む系では金属Feの量は高圧ほど量が少なくなることが明らかとなった。メスバウアー測定より、金属Feの量の減少とともに三価のFeの減少が確認された。これらのことから、Brg中のFeの不均化反応はAl濃度とともに増加し、圧力とともに減少することが明らかとなった。このことから、下部マントル上部で観察された地震波の低速度領域はBrg中のFeの不均化反応が要因である可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、下部マントル、特にケイ酸塩ペロブスカイトであるブリッジマナイトのレオロジーについて、化学的観点からの制約を行った。本研究によって、下部マントルの最上部では、鉄の不均化反応が起き、深部になるほど、鉄の不均化反応が抑制されることが明らかとなった。また、不均化反応によって生成される金属Feは大量の水を保持できることで知られている。そのため、不均化反応によってできた金属Feが水を保持することによって、下部マントル最上部ではブリッジマナイトへの水の影響が小さくなる一方で、下部マントル中域以深では、ブリッジマナイトのレオロジーが水の影響を受けやすくなり、粘性率が下部マントル中域で大きくなりうることが明らかとなった。このことから、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
1年目となる平成27年度には、下部マントル条件での粘性率の直接測定が可能となる変形実験中の応力ー歪その場観察技術の開発を行った。これにより、下部マントル鉱物の粘性率の直接測定が可能となった。さらに、2年目となる平成28年度には化学的観点から、下部マントルの最主要鉱物であるブリッジマナイトの鉄の不均化反応と主要元素の制約を行った。これにより、下部マントルの主要鉱物であるブリッジマナイトの化学組成について制約を与えることができた。最終年度である平成29年度には、これら、実験技術と制約した化学組成を基に、ブリッジマナイトの粘性率の組成依存性を決定することによって、ブリッジマナイトの下部マントル全体での粘性率の決定を目的とする。最後に、本研究によって得られたブリッジマナイトの粘性率から下部マントル全域の粘性構造を構築を目指す。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
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