研究課題/領域番号 |
15J09735
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山下 慎一郎 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 熱可塑性CFRP / 不連続繊維 / 体積抵抗率 / 耐雷性 / 引張破壊 / 評価手法 / メカニズム |
研究実績の概要 |
平成27年度には,計画していた①熱可塑性CFRPの電気・熱伝導率,②熱可塑性CFRPの被雷時損傷メカニズムの2テーマに加え,平成28年度の計画に含まれていた③UT-CTTの引張破壊挙動を前倒しして行った. ①熱可塑性CFRPの電気・熱伝導率/44ミクロンの薄層炭素繊維シートを用いて開発した新素材,炭素繊維薄層テープ強化熱可塑性樹脂(UT-CTT)を対象に,従来の不連続繊維材より高い導電性が期待される本材料について検討し,以下の成果を得た.(1)従来の特性評価手法における問題点を指摘,電気伝導率を正確に測定する新たな手法を提案した.(2)UT-CTTを構成する炭素繊維テープの厚み・長さと体積抵抗率の関係を明らかにした.(3)炭素繊維テープの厚みと長さの変化が電気伝導率の変化にどれだけ寄与するかを検討し,テープを長くするよりも薄くする方が導電性の向上効果が高いという新たな知見が得られ,導電性における薄層シート適用の効果が定量化された. ②熱可塑性CFRPの被雷時損傷メカニズム/連続繊維積層板とUT-CTTを対象に模擬雷撃試験を実施,損傷挙動を高速度カメラで捉え,被雷後の損傷を3D形状測定機と超音波Cスキャンによって観察した.本研究の結果,炭素繊維シートの薄層化,不連続繊維化によって損傷挙動がより等方的になるという結果を得た.平成28年度にはこの変化が被雷後の力学特性に与える影響を詳しく評価し,熱可塑性CFRPの雷に対する安全性について明らかにする. ③UT-CTTの引張破壊挙動/高速度カメラとサーモグラフィによる観察,および試験後の破断面観察により,UT-CTTの引張破壊機構を解明した.また,引張強度はテープ長一定以上で飽和し,原因は破壊機構の変化にあることを明らかにした.これらの新たな知見は,新素材UT-CTTの実用化を目指す上で重要な特性予測モデルの構築に向けて大変有用である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①熱可塑性CFRPの電気・熱伝導率/当初は電気・熱伝導率の予測モデルの構築を目標としていた.しかし,モデル化以前に電気伝導率を正確に評価する手法が必要となり,それを提案できたことが大変有益な成果となった.熱伝導率については,面内方向の測定に困難が生じており,評価手法に施すべき工夫について検証していく必要がある. ②熱可塑性CFRPの被雷時損傷メカニズム/当初の計画である模擬雷撃試験,高速度カメラによる観察,被雷後損傷の評価を予定通り進め,熱可塑性CFRPの雷撃損傷挙動を明らかにすることができた.損傷挙動についても電気的特性と関連付けて考察できており,順調に進んでいる. ③UT-CTTの引張破壊挙動/高速度カメラとサーモグラフィにより引張破壊挙動を捉えただけでなく,引張強度値と破壊機構の関係性についても明らかにすることができた.計画を前倒しして実施できたことも考慮すると,当初の計画以上に順調に進んでいると言える.
①と③は既に学会での口頭発表を終え,その内容を基に英文誌へ論文を投稿,既に査読中である.③については,JISSE14にてStudent Presentation Awardを受賞した.②についても国際学会での口頭発表が受理されており,論文も順調に執筆が進んでいる.論文投稿,学会講演による成果発表は以上の理由から順調に進んでいると言える.
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今後の研究の推進方策 |
【準静的荷重負荷時の破壊挙動】平成27年度に引張破壊挙動を解明したため,今後はその知見を曲げ破壊挙動の解明に活かしていく.自動車等様々な構造物では,曲げ荷重負荷時の挙動が極めて重要であり,その破壊挙動の解明は安全な製品設計の実現に資する.静的曲げ試験時の挙動をサーモグラフィやアコースティックエミッションを使って捉え,曲げ強度予測モデル構築の基盤となる研究を行う. 【CTTの力学特性予測モデルの構築】材料構成要素である炭素繊維テープが数センチメートル程度と比較的大きいCTTでは,小型試験片による材料特性評価時に試験片サイズに依存する結果のバラつきが生じやすい.そこで,実験結果を参照しながら,弾性率や強度の予測モデルを構築する.このモデルにより,(1)設計に使える材料特性を評価するのに必要な試験片サイズの提案,(2)任意サイズでの材料特性のバラツキの定量化,などが可能となり実用上極めて有用である. 【被雷後残留力学特性の評価】落雷を受けた部材は,損傷による力学特性の低下が懸念される.そこで,安全性評価のためには被雷後の力学特性を評価することが不可欠である.CTTの被雷後の力学特性についての先行研究はなく,今後CTTを実用化するにあたって重要な検討事項である.当初計画では雷撃試験を代替する力学試験を計画していたが,その前に被雷後の力学特性,および破壊挙動がどのように変化するのかを検討することが重要であると判断し,そこに重点を置くこととした.実施に当たっては,引張・曲げ破壊挙動の検討で得た知見と,雷撃損傷メカニズムの解明で得たあらゆる知見を融合して評価を行う. 以上の検討で得られた知見を統合することで,研究目的である「熱可塑性CFRPによる信頼性の高い構造設計の実現に資すること」を達成できると考える.
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