2016年8月までアメリカNew York Universityの比較文学科に留学した。そこでは主にウィリアム・ジェイムズについての最新の研究にふれ、さらに比較文学という手法それ自体がどのようにして発展してきているのかを確認した。より具体的な研究については、当初の予定では、漱石の初期における文芸批評に見られる科学的スタンスがどのようにしてとられるようになったのか、ジェイムズとのつながりはどこにあると言えるのかということを調べること、また、そうした科学的なスタンスと一見相矛盾するような心霊研究にジェイムズも漱石も関心を持っていたが、どのようにしてそうした対立するような二つの領域を探求せずにはいられなかったのかを明らかにすること、の二つが目的であったが、実際の留学期間中で日本ではアクセスし辛いWilliam James Studiesなどの研究雑誌の調査でさらなるジェイムズと漱石の関係性が明らかになった。それは自由意志論についてである。ジェイムズは当時主流であった自由と決定論が両立するという立場に反対して偶然性あるいは可能性の重要性を説いていたが、これは漱石にもあてはまる。漱石は『明暗』という遺作で偶然性を中心的な問題としていたが、それはそうした自由との関連で考えられるべきものなのである。同作ではポアンカレが言及されるが、ジェイムズ研究によればポアンカレの自由意志論はジェイムズに端を発するような考えである。帰国後は留学で得た知見をまとめ論文を製作している。
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