研究課題/領域番号 |
15J09827
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
山下 正貴 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | アセン / テトラチアフルバレン / OFET / チアンスレン / ラジカル |
研究実績の概要 |
これまで外部刺激により応答するクロミズム分子は多数報告されており、その中の一つであるチアンスレンは二電子酸化することで色調や構造が大きく変化することが報告されている。チアンスレンは二つのベンゼン環がオルト位が硫黄原子により二重架橋された分子構造を持つが、二つのベンゼン環はそれぞれ独立している。このチアンスレンを酸化することで二つのベンゼン環の共役がつながり、アントラセンに類似する電子構造を持つ。そのためπ共役拡張チアンスレンは酸化することでチアンスレンよりも大きな色調、構造の変化に起因するクロミズム特性が期待される。そこでπ共役拡張チアンスレンの合成を行い、その酸化状態の物性解明を行った。具体的にはアントラセンが縮環したチアンスレンを合成した。さらに化学的酸化もしくは電解酸化を用いて二電子酸化することでジチアノナセンの合成を試みた。その結果、どちらの酸化法を用いてもジチアノナセンではなく左右のアセン上にラジカルが局在したジラジカルカチオンであることを電子共鳴スピン法、吸収スペクトル、分子軌道計算により明らかにした。 また有機トランジスタ材料として期待されているアセン縮環テトラチアフルバレン(TTF)への置換基の導入を検討した。具体的にはナフタレン縮環TTFに電子求引性であるイミド基を導入したDN-TTFbisimideの合成検討を行い、簡便な合成法を明らかにした。さらにイミド基上には炭素数の異なるアルキル基を導入した種々のナフタレン縮環TTFbisimideを合成し、アルキル基の炭素数と蒸着にて作製したトランジスタにより得られた移動度との関係を明らかにした。アルキルの炭素数が伸張するに従い、薄膜の配向性は基盤に対してエッジ-オン配向からフェイス-オン配向へと変わり移動度が低下することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は置換基が導入されたテトラセン縮環TTFの合成と物性解明、ジチアノナセンの合成と物性解明およびナフタレン縮環TTFbisimideの合成と物性解明を目的に研究を行った。置換基が導入されたテトラセン縮環テトラチアフルバレンでは、テトラセン縮環TTFへの置換基の導入方法を明らかにした。また合成した化合物の物性を明らかにし、導入した置換基が物性に与える効果をまとめ、国際誌で報告した。 ジチアノナセンでは当初の予想とは異なる結果が得られたが、ジラジカルカチオンの合成に成功し、ESR、電解UV、分子軌道計算などによりその物性を明らかにした。現在論文投稿中である。 ナフタレン縮環TTFbisimideでは、その簡便な合成法を明らかにした。さらにイミド基上のアルキル基の長さが異なるものを合成しトランジスタ特性を明らかにした。その結果、蒸着により薄膜トランジスタを作製、評価したところアルキルが伸長することで移動度が低下することが明らかになった。また蒸着時の基盤加熱の温度により、結晶性と配向性の制御にも成功した。この結果は、国内会議および国際会議にて発表を行い、第26回基礎有機討論会にてポスター賞を受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はアセン縮環TTFの有機半導体デバイスとしての性質をより詳細に調査する。 まずこれまで移動度が得られているナフタレン縮環TTFbisimideのデバイスの最適化および薄膜特性について調査する。具体的には蒸着時の基盤加熱、薄膜の溶媒アニールや電極材料の最適化を行い、移動度を明らかにする。また得られた薄膜はXRDやAFMにより分析し、導入したイミド基が物性に与える効果を明らかにする。また単結晶の作成を行い分子構造と単結晶トランジスタより得られる移動度との相関関係についても調査する。 またこれまで合成されているアセン縮環TTFの中で最大のテトラセン縮環TTFについて移動度を明らかにする。テトラセン縮環TTFは二つのテトラセンとしての性質を示す点で、TTFとしての性質を示すアントラセン縮環TTFとは電子状態が異なる。この電子状態の違いがモロフォロジーや移動度に与える影響について明らかにする。
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