エイコサペンタエン酸(EPA)は抗炎症作用など様々な効能を有する生理活性物質として、近年、大きな注目を集めている。EPAは脂質メディエーターの前駆体として機能するとともに、リン脂質のアシル鎖として生体膜の生理機能発現に重要な役割を担っていることが考えられている。しかし、その分子メカニズムの詳細は不明である。EPAの生理機能を解析するためにEPAのω末端にエチニル基を導入したω-エチニル型EPA(eEPA)を開発した。eEPAを用いることによりクリックケミストリーを用いた化学修飾が可能であり、EPAの挙動解析やEPA修飾タンパク質の探索などの様々な解析に応用可能であると期待される。本研究では、EPA生産性細菌をモデル細菌として用いた。本菌は、低温誘導的にEPA含有リン脂質を生合成し、本菌のEPA生合成酵素を欠損させたEPA欠損株(ΔEPA)では低温で生育速度が遅延し、異常に伸長した細胞を形成する。このΔEPAをEPA含有培地で生育させるとこれらの生育阻害が抑制される。前年度までの研究により、本菌において、eEPAが天然型EPAとほぼ同等の機能を発揮することが示された。 本年度の研究において、以下の成果を挙げた。1. 本菌の主要な脂肪酸であるパルミトレイン酸のω-エチニル型アナログ(ePAL)とeEPAが異なる細胞内局在性を示すことを、クリックケミストリーによる蛍光標識と超解像蛍光顕微鏡観察によって明らかにした。2. eEPAが共有結合したタンパク質をクリックケミストリーを利用したアフィニティー精製によって分離し、そのうちの5種の同定に成功した。また、それらの一次構造から、eEPAによる修飾様式に関する知見を得た。3. 2で同定されたeEPA修飾タンパク質のうち3種について、C末端にHisタグを付与したタンパク質を発現するゲノム改変株を作製し、脂質修飾様式や機能の解析を行うための基盤を構築した。以上の研究成果は、EPAの生理機能発現機構の解明に大きく寄与するものである。
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