平成27年度の研究によって、強相関二次元物質である1T型硫化タンタル(1T-TaS2)超薄膜に、大電流を伴う面内強電界を印加することで、不揮発性スイッチング現象を経て新奇電子相が誘起されることが分かった。このスイッチング機構を解明し、さらに誘起される電子状態の詳細を明らかにすることが、平成28年度の研究目標である。 まずスイッチング機構を解明するために、スイッチングの閾値電場の温度依存性を詳しく調べた。すると、閾値電場が温度の低下に伴って指数関数的に増大することが分かった。1T-TaS2は電荷密度波(CDW)秩序を有している。このようなふるまいは、何らかの物に引っかかった、すなわちピン止めされたCDWが電場によって動き出していることを示唆する。これは一般にCDWのスライディングと呼ばれる現象である。CDWがスライディングすると、格子に対するCDWの新しい配置が実現し、その熱力学準安定な状態が電圧遮断後も保持されていると考えられる。 また新奇電子相の電子状態を明らかにするために、ホール係数の温度依存性を詳しく測定した。すると、温度の低下とともに、抵抗率が減少していく一方で、ホール係数の絶対値が急激に増加していく振る舞いを見出した。すなわち、冷却していくと、キャリア数が単調減少する一方、易動度は単調増加した。これは、通常の金属ではなくて、半金属の構造が実現していることを示唆している。 どのようなCDW構造が実現すれば半金属構造が出現するのか、それを明らかにすることが今後の課題である。
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