研究課題/領域番号 |
15J09868
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
甲斐 友佳理 熊本大学, 生命科学研究部, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 糖尿病 / インスリン抵抗性 / 糖尿病腎症 / 物理療法 |
研究実績の概要 |
本年度の検討においては, 特殊条件 (0.1ms, 55pps) の微弱パルス電流 (Mild Electrical Stimulation: MES)および温熱刺激 (42℃, Heat Shock: HS) の併用処置 (MES+HS) が2型糖尿病病態改善作用を示すこと, および長期間処置の安全性を明らかにした. 本検討では, 加齢に伴う肥満誘導性2型糖尿病モデルKKAyマウスを用いて, MES+HS処置を週2回10分間28週間または週4回10分間12週間行った. その結果, 28週間処置を行ったKKAyマウスで顕著な副作用は観察されず, さらにMES+HS処置群においてインスリン抵抗性が有意に改善された. また, 代表的な糖尿病合併症である腎障害についてもKKAyマウスでみられる腎肥大が抑制され, さらにMES+HS処置群腎臓で原尿生成の責任細胞であるポドサイトの関連遺伝子mRNA発現が上昇していた. また, 12週間処置KKAyマウス腎臓におけるIl-6等の炎症性サイトカイン発現をMES+HSが有意に抑制していた. 以上本研究は, 肥満誘導性の糖尿病病態初期から合併症発症に至る2型糖尿病モデルKKAyマウスを用いて, MES+HSの長期間処置の安全性および糖尿病病態・腎障害改善作用を示した. 本研究成果は学術雑誌に投稿し, 受理された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度において, 特殊条件の微弱パルス電流および温熱の同時印加療法(MES+HS)が2型糖尿病モデルKKAyマウスにおいて病態改善作用を示すこと, さらに糖尿病の代表的合併症である腎障害に対しても進行抑制作用を有することを示唆し, その結果を学術雑誌に投稿した. これは申請時本年度の予定としていたMES+HSの糖尿病合併症である腎障害に対する効果を明らかにし, MES+HSを2型糖尿病に対する包括的治療戦略として確立するための重要な知見を提案する検討であり, また当初の予定通り本検討の成果を学術雑誌に投稿した. また, 糖尿病合併症としてさらに皮膚障害に対するMES+HSの影響を明らかとするため, 基礎的検討の段階ではあるが皮膚創傷モデルマウスを用いてMES+HSの作用について検討を行った. また, 皮膚障害に対するMES+HSの効果について当初想定していた仮説とは異なる結果が得られていることから, MES+HS処置皮膚組織のマイクロアレイの結果を再解析し, MES+HSの細胞内タンパク質品質管理機構に着目するに至った. 以上の進捗状況からおおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は, 当初予定していた通りMES+HSを2型糖尿病の包括的治療法として確立するための基礎的知見として, ヒトの病態発症プロセスを模した, 加齢に伴う肥満誘導性2型糖尿病KKAyモデルマウスを用いて長期間および短期間のMES+HS処置を行い種々の検討を行った. 本検討の中で, 糖尿病病態改善効果に加えてKKAyマウスで観察される皮膚障害がMES+HS処置群で全く見られなくなることが示された. この結果および当初の皮膚組織におけるマイクロアレイ解析結果からMES+HSが皮膚病態を改善し, 皮膚損傷の修復を早めることが予想された. その一方で, 皮膚創傷モデルマウスを用いた予備的検討ではMES+HSが組織修復を早めるのではなく, 線維化過程に作用することで修復皮膚の質に影響を与えることが示唆されている. これらの結果を鑑み, MES+HS処置皮膚組織のマイクロアレイ結果を再解析した結果, MES+HSがタンパク質品質管理機構に関与する遺伝子発現を制御している可能性が示された. 以上の結果から, MES+HSの作用機序についてさらに解明するため, タンパク質品質管理機構について世界最先端の技術を有する研究室において関連技術を取得している. 今後はさらにその関連技術の応用について行い, MES+HSの生体恒常性維持作用のメカニズムについて明らかにすることを目指す.
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