研究課題/領域番号 |
15J09887
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
佐々木 俊介 帝京大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | ウェイスト・ピッカー / スラム / 廃棄物最終処分場 / インフォーマル・リサイクル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、東南アジア3ヶ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン)における廃棄物最終処分場インフォーマル・リサイクルの実態解明を行うことであり、初年度はインドネシアを中心に、マレーシアおよびフィリピンについて予備的な情報の入手を行った。具体的には、インドネシアに関して以下の4項目に関する調査および分析を行うとともに、マレーシアおよびフィリピンについて文献および現地の協力者から情報を得た。 第1は、伝票分析に基づくウェイスト・ピッカーの収入及び借入金の返済に関する実態調査であり、この調査では、ウィエスト・ピッカーと仲買人との間の取引の際に取り交わされる売買伝票の分析を行った。伝票には、取引された有価物の名称、重量、単価、借金の返済などについての情報が記載されており、伝票の分析により、ウェイスト・ピッカーの平均リサイクル率や平均収入、借入金の返済分を考慮したウェイスト・ピッカーの収入レベルの解明を行った。 第2は、児童労働のパターンに関する実態調査であり、この調査では、調査地で行われている児童労働に関して、どのような労働を、どれだけの時間行い、どれだけの収入を得ているのかについての実態解明を行った。この調査では、数十名の児童に対して、2週間継続的に調査を行い、児童が従事している労働のタイプ、各タイプの労働に従事している時間、平均収入に関する情報を得た。 第3は、スラム街における教育活動の実態調査であり、この調査では、調査地のスラム街において行われている教育活動について、現地で10年以上教育活動(幼稚園及び小学校の運営)を行っているNGOを主な対象に、調査地に居住する児童の教育環境(成績や出席状況など)の実態解明を行った。 第4は、スラム街の生活環境に関する実態調査であり、この調査では、スラム街の住民たちがおかれている家屋やインフラなどの生活環境に関する調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
いくつかの課題は残されているが、初年度はおおむね順調に進展した。とりわけ、インドネシアにおける現地調査については順調に進んでおり、現地の大学の教員との共同研究の立ち上げなど、これまでに行ってきた研究を大きく飛躍させる可能性のある研究環境を整えられたといえる。しかしながら、マレーシアおよびフィリピンについては、現地調査ができておらず、研究成果の発表も口頭発表にとどまっているため、課題も残されている。具体的には次の通りである。 第1に、インドネシアにおける現地調査については、これまでにも調査してきたバンタル・グバンについては予定以上の情報を得ることができた。加えて、現地の大学の教員との間で、共同研究に関する取り決めを交わすことができたため、今後のインドネシアにおける研究環境をかなり整えられたと考えている。ただし課題も残されており、バンタル・グバンはこれまでにも調査してきた場所であり、初年度にその他の場所にまで調査範囲を広げられなかったため、今後、調査範囲の拡大が必要となる。 第2に、マレーシアおよびフィリピンに関しては、文献調査および現地の協力者からの情報入手にとどまっており、この点については課題だと考えている。本研究は、フィールド調査に基づくデータを使用した研究であり、現地調査が実現していない状況は課題だと考えている。ただし、入手可能な文献についてはおおむね取りそろえるとともに、現地の協力者との関係も構築しているため、最低限の準備は整えたと考えている。 第3に、研究結果の公表については、課題が残されたと考えている。廃棄物循環資源学会において口頭発表を行っており、少なくとも一度の公表は行ったが、回数として少なく、また、投稿論文になっていないため、課題があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
第2年度は、初年度に残された課題を克服するとともに、マレーシアおよびフィリピンにおける調査を充実させる。具体的には以下の通りである。 第1に、インドネシア調査については、インドネシア国内3ヶ所の廃棄物最終処分場を新たな調査地としてフィールド・ワークを行う。調査の候補地は5ヶ所まで絞られており、今後、現地の研究者の協力も得ながら検討していく。 第2に、マレーシアおよびフィリピンにおける調査についてである。マレーシアおよびフィリピンの両国において調査を行うが、とりわけマレーシアの調査に力を入れる。マレーシアについては、現在において既に調査対象となる複数ヶ所の廃棄物最終処分場が決まり、現地協力者(研究者及び行政当局者)などの研究に必要となる下準備が進んでいる。フィリピンについては、調査対象が首都以外決まっておらず、現地の協力者との関係構築もそれほど進んでいない。そのため第2年度は、マレーシアにおける調査を中心に行い、フィリピンについては研究環境の整備を行うにとどまると考えられる。 第3に、研究成果の発表についてである。2016年5月中に2回のポスター発表を行うことが決まっているなど、積極的に研究成果の発表を行っていく。このように、口頭およびポスター発表を積極的に行っていくことはもちろん、投稿論文の執筆も進めて行く。 第4に、アウトリーチ活動についてである。本研究が対象とする調査地は、スラム街であり、貧困問題をはじめとした社会的な関心が払われてきた場所である。そのため、本研究によって得られた情報や写真は社会に広く公表していく価値があると考えられる。そこで、アウトリーチ活動としてウェブサイトの構築などを通じてそれを行っていく。
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