本研究課題の目的とするところは,小分子を内包したフラーレンおよびヘテロフラーレンの創製とその性質の解明である.以下に本年度の研究成果をまとめた. (1)フラーレンに内包された水分子を磁気プローブとして用いることで,プロトン核の緩和時間をパラメータとして,フラーレン骨格上に導入された結合の分極を実験的に評価する手法を見いだした. (2)フラーレン誘導体とコバルト試薬との反応による置換基の脱離反応を開発した.また,本反応においてフラーレン-コバルト錯体が副生することを見いだし,当該誘導体の合成手法の確立と,その特異な電子状態・性質を,単結晶X線構造解析・NMR測定・IR測定・UV測定・CV測定によって明らかにした.また,その安定性・反応性について検討した. (3)アザフラーレン前駆体である誘導体および関連化合物の反応性を系統的に評価し,特に,可逆な保護・脱保護反応の開発に成功し,新しい誘導体の合成を行なった.また,NMRを用いて内包種の磁気的性質について考察した. (4)水分子を内包したフラーレンにおいて,単一分子接合を構築することで,内包水分子とフラーレンケージとの相互作用が無視できるほど小さいことを明らかにした. (5)水分子を内包したアザフラーレンのラジカル状態における電子的・磁気的性質を理論計算を用いて評価した.その結果,内包された水分子の配向に応じて,アザフラーレンの性質が変化することがわかった.
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