研究課題/領域番号 |
15J09928
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
津田 雄介 徳島大学, 大学院薬科学教育部, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | ペプチドチオエステル / Native Chemical Ligation / 武装抗体 |
研究実績の概要 |
本研究では、タンパク質特異的修飾を指向した新規タンパク質チオエステル合成法の開発を目的とする。 近年、疾病に関与する細胞を認識する抗体と生物活性小分子を結合させた武装抗体が注目を集めている。現在汎用されている抗体と小分子化合物を結合させる手法では選択性に問題があるため、化学的に均一な武装抗体を得ることが困難である。この問題の解決法として申請者は、ペプチドチオエステルとN末端Cys含有ペプチドの化学選択的な縮合反応であるNative Chemical Ligation (NCL) 法が利用可能だと考えた。そこで申請者は発現タンパク質に適用可能なタンパク質チオエステル合成法を開発し、本手法を用いて調製したチオエステル化抗体と小分子化合物を導入したN末端Cys含有化学合成フラグメントのNCLにより、化学的に均一な武装抗体の合成することとした。 申請者は現在までに、Ni(II)に配位する4残基のアミノ酸からなるタグ配列を有する化学合成したモデルペプチドのチオエステルへの変換が可能との基礎知見を得ている。そこで今年度、申請者は上記の配列特異的チオエステル化反応のペプチドレベルでの確立を行った。すなわちNi(II)を認識するタグ配列や反応条件の最適化および基質汎用性の検証を行った。さらに本反応により調製したペプチドチオエステルとN末端Cys含有ペプチドのNCLにより、ナトリウム利尿ペプチドであるCNP53の合成にも成功し、本反応性の有用性を示した。 また本反応をタンパク質へと適用することを考慮し、Hisタグ含有ペプチドのNi樹脂上でのチオエステルへの変換を試みた。反応中にペプチドが溶出されるという問題が生じたが本知見を基に共有結合を介しペプチドを樹脂に担持し、チオエステルへと変換する方法論の開発を現在行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、平成27年度はNi(II)に配位する4残基のアミノ酸からなるタグ配列を有するペプチドの配列特異的チオエステル化反応を確立した。具体的にはNi(II)を認識する4残基のアミノ酸配列、すなわちSer-Xaa-His-Zaa配列(Xaa, Zaa: 任意のアミノ酸)の最適化を行い、Ser-Arg-His-Trp配列を見出した。続いて、Ni(II)濃度、メタノール濃度、pH、温度、反応時間等を変数とし、チオエステル化反応の条件最適化を行った。また、反応部位のN末端側隣接アミノ酸が反応性に大きく影響を与えることが予測されたため、本アミノ酸残基を天然アミノ酸20種に置換したモデルペプチドを用いて、本反応の基質汎用性を検証した。さらに本反応により調製したペプチドチオエステルとN末端Cys含有ペプチドのNCLにより、ナトリウム利尿ペプチドであるCNP53の合成に成功し、本反応の有用性を示した。これらの研究実施状況より、平成27年度の研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に確立したペプチドレベルでの配列特異的チオエステル化反応を長鎖発現タンパク質のチオエステル化へと展開する。本反応はメタノール含有水溶液中で行うため、発現タンパク質の溶解性に影響を与えることが予想された。そこで前年度、本反応を発現タンパク質へと適用することを考慮し、Hisタグ含有ペプチドのNi樹脂上でのチオエステルへの変換を試みたが反応中にペプチドが溶出されるという問題が生じた。平成28年度は本知見を基に、共有結合を介しペプチドを樹脂へと担持した後にチオエステルへと変換する方法論の開発を行う。まず特定の刺激に応答して切断されるcleavable linkerを介し、ペプチドを樹脂へと担持する。そして樹脂上にて配列特異的チオエステル化反応を行った後、特定の刺激を与え樹脂からペプチドチオエステルを溶出させるという戦略である。続いて、タグ配列を導入したタンパク質発現系の構築を行い、種々タンパク質チオエステルの調製を通じて本反応の汎用性・信頼性の検証を試みる。
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