研究実績の概要 |
PCTAIRE kinase 3 (PCTK3)はcyclin dependent kinase (CDK)ファミリーに属するSer/Thrキナーゼであり、他のCDKとは異なり、組織選択的な発現パターンを示すことから、細胞周期制御以外の生理機能を発揮することが推測されている。これまでに、siRNAを用いたノックダウン解析により、PCTK3がアクチン脱重合因子であるcofilinのリン酸化状態を調節し、細胞形態や細胞運動の制御に関わることを見出した。そこで、本研究は、PCTK3による細胞運動制御機構解明を目的とし、その下流シグナル伝達機構の解明を試みた。 まず初めに、cofilinのリン酸化調節に関与するRhoA, Rac1シグナル伝達経路について調べた。その結果、PCTK3ノックダウンによってRhoA活性が増加するのに対して、Rac1活性は減少し、PCTK3はRhoA/Rac1の活性バランス制御に関与していることが示唆された。さらに、PCTK3ノックダウンがRhoA/Rac1の上流因子に及ぼす影響を調べた。その結果、Focal adhesion kinase 1 (FAK1) Y397及びSrc Y416のリン酸化が亢進することを見出した。このことから、PCTK3が接着斑(Focal adhesion)の形成や、接着斑を介したシグナル伝達の調節に関与する可能性が考えられた。そこで、接着斑を構成する分子(vincullin, talin1, tensin2, paxillin, FAK1, α-actinin)との相互作用を調べた結果、PCTK3はFAK1、α-actininと結合することが明らかとなった。さらに、in vitro kinase assayにより、PCTK3がFAK1をリン酸化することがわかり、FAK1がPCTK3の基質であることが示唆された。
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