研究課題/領域番号 |
15J09975
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
西村 勇姿 大阪府立大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 光誘起力 / 光発熱効果 / 金ナノ粒子 / DNA / 対流 |
研究実績の概要 |
光誘起の流体効果で生体関連物質の相転移,特異的結合,細胞の状態制御を目指し,社会で求められるバイオ分析技術に発展させることが本研究の目的である.2年目は,DNAハイブリダイゼーションの光加速の原理を構築することに挑戦した.集光したレーザー光照射による集合現象と溶液中に誘起される流れの相乗効果により,金ナノ粒子表面に修飾した一本鎖DNAと浮遊状態の一本鎖DNAの衝突確率を高めることで,DNAの二重鎖形成プロセス(ハイブリダイゼーション)を加速できることを解明した.試行錯誤の末,液滴の表面近傍にレーザーを集光すると効率よくプローブ粒子とターゲットDNAがハイブリダイゼーションして,100 pMという希薄な濃度の相補鎖DNAの分散液を用いた場合でも(測光領域で約5 zmol),わずか2分程度でサブミリメートル程度の大きさのネットワーク状の集合体を形成できることが分かった.一方で,同じ濃度の完全ミスマッチDNAを用いた場合には集合体は形成されず,塩基配列の違いが光照射による集合現象にも影響を及ぼすことを確認した.また,レーザースポット付近の局所的な消衰スペクトルを測定したところ,相補鎖DNAの場合のみ顕著なスペクトルのブロード化と長波長シフトが確認でき,理論的に予言されていた局在表面プラズモンの協力現象によるプラズモニック超放射の動的光制御の実験的検証にも成功した.通常fmol程度のDNAを検出するのに数時間を要するが,本研究で得られた原理を利用すれば,わずか数分で100万分の1のzmolオーダーの微量DNAの二重鎖形成からサブmmに迫るマクロな集合体を形成して検出できるため,遺伝子検査の迅速・高感度化が期待できる.将来的には,予防医療や食品の遺伝子検査の簡素化など,21世紀の人類の重要課題である食の安全・健康長寿のための革新的技術に繋がる成果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「研究実績の概要」に記載したように,光誘起の流体効果を利用したDNAハイブリダイゼーションの光加速の原理構築に成功しており, Nature系論文誌のScientific Reportsに掲載された.この成果は流れの効果を巧みに利用した微小物体の状態制御の指導原理開拓を目的とした本課題を十分に進展させるものであると言える. さらに,臨床現場では様々な生体物質が夾雑物として含まれる可能性があるため,実際のDNA検査を想定してサンプル分散液中にタンパク質や異種DNAを含む条件下でも実験を行ったが,結果としてそのような夾雑物の存在下でもDNAのハイブリダイゼーションの光加速することに成功した.このように,光加速に基づく迅速・高感度なDNA検出技術の実用化へ向けた重要な成果も得られている. また,初年度に取り組んだ金属ナノ粒子を高密度にプラスチックビーズ表面に集積化した「金属ナノ粒子固定化ビーズ」が分散したサンプル液中に赤外レーザーを照射することによって生成される「光誘起バブル」の発生機構・安定化機構の解明に関する研究を後輩の補助の下で実施し,その成果を論文にまとめ,学術論文誌に投稿完了した. さらには最終年度に着手する予定である細胞の光集積と機能制御に関しても,光発熱集合法による金ナノ粒子内包デンドリマーの集積化に成功して医薬学分野への応用可能性が期待できる基礎的知見を得ており,国内特許出願も行った.このように計画の一部を前倒しで実施しており,上記のように目覚ましい成果も得られていることから,当初の計画以上に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,DNAハイブリダイゼーションの光加速の最適化を試みつつ,光照射によって引き起こされる流体現象の解明も目指す.特に,理論的アプローチとして,DNAハイブリダイゼーションの光加速に関しては,1次元金属ナノ粒子配列系でプラズモニック超放射を解析的アプローチにより解明することでスペクトル変調に寄与するナノ粒子数やDNAの相補性が与える影響を考察し,実験へのフィードバックを検討する.さらに,マクスウェル方程式を離散形で解いて自己無撞着に評価した金属ナノ粒子の集団的な光学応答を発熱量などを見積もり,得られた数値解を参照して数値流体力学の手法を用いて光が誘起する熱対流シミュレートする.さらに,液中にマイクロメートルオーダーの粒子が存在するような状況を解析し,光誘起集積化の実験のための最適条件の探索も行う. タンパク質検出に関しては,マイクロ流体チップ中の狭小空間における光誘起集積化に関するこれまでの知見を活用し,アレルギー物質検査の迅速化・高感度化の基礎を構築する. 同時に,最終年度に予定していた細胞への光集積の応用ついても本格的に着手する.本項目においては細胞の生存条件での集積化が重要課題であるため,レーザー照射下で対象にダメージを与えずソフトに集積化するための条件探索も検討する.特に本年度に取組んだデンドリマーを集積対象とした細胞応用の検討も行う.
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