研究実績の概要 |
従来の再生医療技術の課題は,様々な前駆細胞間の情報伝達機構の時空間的動態を再現できなかったことである.これを可能にするため,近年我々は,間葉系細胞依存性の収縮に基づく自己組織化培養法を開発した(Takebe T, et al. Cell Stem Cell, 2015).本年度は,この培養法を成人から分離した組織片(主に膵島など)またはヒト人工多能性幹細胞由来のオルガノイドに応用し,組織内の血管新生をin vitroで誘発した.その結果,この自己組織化培養法を動物由来の組織片またはヒト多能性幹細胞由来オルガノイドに使用することによって,血管内皮細胞を含む長径1,000μmにも及ぶ組織形成に成功した.パラクリン効果を調べるため,膵β細胞を使ってトランスウェル培養実験を行った結果,膵β細胞は血管内皮細胞と間葉系細胞の存在下でもっとも効率よく増殖した.血管内皮細胞を伴ったマウスまたはヒト膵島(血管化膵島)の自己組織化は,高密度な血管構造を極めて早期(48時間)に再構築することにより,移植後の生着率を著しく向上させた.一方,膵島単独移植されたマウスでは,膵島内の再灌流や形態的変化が観察されず,生存している膵島数も経時的に減少した.臨床的に有意義とされる従来の移植手法に比べ,血管化膵島移植は劇症1型糖尿病モデルマウスの治療に有効であった.膵島の生着率,インスリン分泌能,グルコース反応性等の複数の作用機序解析の結果より,血管化膵島の臨床応用によって,長期インスリン離脱ができることが示唆された.つまり,我々のアプローチは,劇症1型糖尿病の根治的治療の主流となり,患者一人の治療に必要なドナー数を減らすことにつながる有望な手段といえる.
|