研究課題
既に作製・報告した新規免疫不全マウスBRGSマウスは、NODマウスストレイン特有のヒト-マウス異種移植効率の高さが、NODマウスの持つ数多い免疫異常のうちの一つであるNOD型変異SIRPA のみで説明できることを証明しただけでなく、Rag2,Il2rg,Sirpa という3つの遺伝子操作のみで、現存する最良の免疫不全マウスと同等のヒト細胞の生着を担保するシンプルなマウスストレインである。現存の免疫不全マウスでは、慢性骨髄性疾患であるMPN (myeloproliferative neoplasm) やMDS (myelodysplastic syndrome), CML (chronic myeloid leukemia) は、病態を再構築できない。本研究では、BRGSというシンプルなマウスストレインを基盤に更なる改良を加えることで、MPN/MDS/CML のマウス内再構築を目指す。昨年度は、マウスc-kit(Wv)を導入したBRGSK(Wv/Wv)マウスを樹立・報告した。このマウスはBRGSマウスを基盤に作製しており、高効率にヒト骨髄球系細胞を支持することが可能である。BRGSKマウスに骨髄増殖性腫瘍のヒト検体を移植・解析しているが、現時点で疾患の再構築に成功したものは得られていない。現在、移植する症例を増やしているが、更なる改良としてhuman SIRPA knock-in mouseを作製している。c-kit(Wv)の導入にまでは至っていないが、BRG-human SIRPAマウスにおいては、human SIRPAの造血細胞に対する強い結合・支持により、既存のBRGSマウスよりも高いヒト造血支持能が示されている。このBRG-human SIRPAマウスにc-kit(Wv)を導入することによりヒト骨髄増殖性腫瘍のマウス内再構築を目指し、腫瘍性幹細胞を同定・解析を行う。
3: やや遅れている
BRGSマウスを基盤に作製したBRGSK(Wv/Wv) マウスは、ヒト骨髄球系・巨赤芽球系細胞の生着率を飛躍的に改善したが、現時点で、ヒト骨髄増殖性腫瘍のマウス内再構築には至っていない。さらなる改良として、human SIRPA を導入したBRG-human SIRPA マウスも作製しており、既存のBRGSマウスよりも高効率にヒト細胞を支持することが示されている。c-kit(Wv)とhuman SIRPA を導入したBRGK-human SIRPAマウスの作製にあたり、c-kit(Wv)遺伝子変異がhomozygoteでの維持が困難であり時間を要しているが、 このマウスが完成すればヒト骨髄増殖性腫瘍のマウス内再構築が期待できる。
BRGSK-human SIRPA マウスによりヒト骨髄増殖性腫瘍をマウス内で再構築することが可能となれば、フローサイトメトリー技術などを用いて腫瘍性幹細胞の純化・同定を行う。また、新規次世代免疫不全マウスの開発により、ヒト細胞の生着率は大幅に改善され、今まで困難であった幹細胞ニッチへの解析への応用が可能となる。これらの純化した腫瘍性幹細胞・ニッチ構成細胞のプロファイリングを、次世代シーケンサーを用いたディープシーケンスで行うことにより、腫瘍化メカニズムおよびその幹細胞維持機構を明らかにしたいと考えている。当該年度、研究者は米国・Harvard Medical School, Division of Hematology, Brigham and Women’s Hospital に研究留学し、ゲノム改変技術であるClustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats: CRISPRを用いて骨髄球系悪性腫瘍の遺伝子プロファイリングを行った。次世代シーケンサーを用いてディープシークエンスを行い、膨大なデータから腫瘍におけるessentialなfactorを見い出す技術・知識を修得した。ここでのプロファイリング技術を、骨髄増殖性腫瘍における純化した腫瘍性幹細胞のプロファイリングに応用することで、腫瘍幹細胞化メカニズム及びその維持機構を明らかにし、腫瘍幹細胞の治療標的となる分子を見い出す。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件)
Stem Cell Report.
巻: 7(3) ページ: 425-38
10.1016