本年度は、2分子のジメチルアリル二リン酸(DMAPP)からシクロラバンデュリル二リン酸(CLPP)を生成するテルペン合成酵素CLDSの反応メカニズムの解明に取り組んだ。CLPPの生合成機構を明らかにするため、メチル基の水素原子を重水素で置換したラベル化DMAPPを用いて、そのプロダクトの標識パターンを解析した。GC-MSおよびNMR解析の結果、非標識のCLPPの分子量154に対して、ラベル化DMAPPを基質としたプロダクトの分子量は12増加した166であったことから、2分子のラベル化DMAPPに含まれる計12個の重水素が全てCLPPに残ることが判明した。 また昨年度にCLDSの結晶構造の決定に成功していることから、その立体構造情報をもとに活性部位近傍のアミノ酸残基を置換し、その変異体の解析を実施した。その結果、基質結合ポケット付近に位置するアミノ酸残基を置換した変異体において、CLPPの他に新たなプロダクトの生成を確認することができた。そこでGC-MSによる保持時間とマススペクトルの比較を行ったところ、このプロダクトは非環状のラバンデュリル二リン酸(LPP)である可能性が高いことが明らかになった。 以上のトレーサー実験と変異体解析の結果を考慮すると、CLDSの触媒機構により2分子のDMAPPが縮合して中間体LPPが生成したのち、閉環反応が進行してCLPPが生成するものと予想できる。CLDSは、イソプレン側鎖の縮合と環化反応を同一酵素が触媒する初めてのテルペン合成酵素であり、本研究により自然界におけるテルペン合成反応の多様性の一端を示すことができると期待している。
|