ヘキサベンゾコロネン(HBC)は広いπ平面に由来した高い自己集積能をもつため、超分子分野での研究が盛んに行われている。一方で、高い構造的対称性ゆえに発光特性が乏しく、光学材料としての応用には課題が残る。本研究ではジシアノメチル基を導入した HBCのアニオン塩を酸化することで、ジシアノエテン基で架橋された二量体の合成に成功した。二量体は溶液中では光照射によってcis-trans異性化し、cis体が優先的に得られることが分かった。また、固体および溶液状態において高い量子効率で赤色発光を示した。さらにすりつぶすことで発光色が変化し、メカノフルオロクロミック特性を示した。本来、発光性に乏しいHBCにおいて固体状態で高い発光効率を達成した結果であり、HBCの発光材料としての応用可能性を示すものである。 またジシアノメチル基をもつHBCの酸化により、テトラシアノエチレン基で架橋されたHBC二量体および環状三量体を得ることに成功した。得られた二量体・三量体はすりつぶすことで固体色が変化し、さらに溶媒の滴下によって元の色に戻るというメカノクロミック特性を示した。ESR測定の結果、機械的刺激によってテトラシアノエチレン部位の炭素-炭素結合が切れラジカル種が生成していることがわかり、そのラジカルは空気下で長時間(数ヶ月)安定に存在していた。また生成したラジカルは近赤外領域に強い吸収を示した。また昇温条件では近赤外吸収は示さなかったことから、熱ではなく機械的刺激によって結合が切断されていることが示唆された。得られたHBC多量体は分子メモリやスイッチングデバイスなどへの応用が期待される。
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