研究課題/領域番号 |
15J10159
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
樫原 潤 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | うつ病 / 偏見 / ステレオタイプ / 教育的介入 |
研究実績の概要 |
うつ病罹患者に対して健常者が抱く偏見は,罹患者が医療機関を受診する上での障壁の1つとして機能している。先行研究においては,うつ病の症状・原因に関する知識啓発を行うだけでは偏見を低減できないことが示されているが,それに代わる有効な偏見低減の手法は確立されていないのが現状である。平成27年度は,うつ病罹患者に対する偏見を低減する方法を新たに確立するという目標に向け,①介入効果の調整変数として機能する可能性が高い,認知的構造欲求(体系化したものごとの理解を好むパーソナリティ傾向)を測定する尺度の邦訳版を開発する,②女性差別の解消などで効果を挙げてきた反ステレオタイプ法(偏見と反する内容を想起するトレーニング)を,小規模サンプルの実験でうつ病の場合に試験的に応用する,という2つの課題に着手した。前者の課題では,2度にわたる質問紙調査邦訳版尺度の妥当性を示す結果(原尺度の因子構造の再現,高い再検査信頼性,関連尺度との予測通りの相関)を得て,その成果を学術論文として国際誌上で発表した。後者の課題では,「明るいうつ病罹患者」「心が強いうつ病罹患者」を想起する反ステレオタイプ法を用い,その効果を2群(各群25名)の実験デザインで検討したが,統計的に有意な偏見低減効果を示すには至らなかった。この実験結果を踏まえた考察を行い,うつ病の偏見低減に反ステレオタイプ法を応用する際の課題として,①反ステレオタイプ法を実施する前提として,どのような性格の人でもうつ病になりうることを解説する必要がある,②効果の検出に向けてより多くのサンプル数確保が必要である,という2点を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
反ステレオタイプ法の効果評価に関わる認知的構造欲求について,邦訳版尺度の開発を達成することができた。実験の結果からは,反ステレオタイプ法をうつ病の場合に応用する際の課題を示すことができた。これらにより,うつ病の場合にも有効な偏見低減の方法を示すという平成28年度の目標を達成するための足掛かりを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,反ステレオタイプ法を実施する際の前提として用いるため,どのような性格の人でもうつ病になりうることを解説する教材を開発する。その上で,2群(各群75名)の実験デザインを用い,開発した教材と反ステレオタイプ法との組み合わせによってうつ病罹患者に対する偏見を効果的に低減できることを示す。早期に実験に成功した場合には,従来の知識啓発との比較も加えるなどして,教材と反ステレオタイプ法の組み合わせによる効果をより詳細に示すことを構想している。
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