研究課題/領域番号 |
15J10187
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
堀 兼大朗 中京大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 自閉症スペクトラム障害 / 自閉症スペクトラム障害の母親 / 排除 / スティグマ / 主観的被差別感 / 障害の秘匿 |
研究実績の概要 |
ここ十数年、自閉症者への排除やスティグマを強化・醸成させうる報道や情報が散見される。しかし、自閉症者に関する障害者差別を取り上げた先行研究は国内外問わず皆無に近い。本研究の目的は、自閉症スぺクトラム障害(以下、自閉症)者を取り巻く、排除や差別現象を、質的・量的調査をもとに、実証的に解明することにある。具体的には、自閉症者当人、その家族、彼らを支える福祉施設職員が、「差別されるのではないか」という主観的被差別感を持つ中、他者とのいかなる相互行為を展開し、また人間関係を構築しているのかを明らかにすることを目的とする。 2015年度は、主に、自閉症者やその家族を支援する特定非営利活動法人にてフィールドワークを行い、自閉症者当人と自閉症者の母親へのインタビュー調査を実施した。また、夏期には、自閉症者を支援する福祉施設にて、施設職員等にインタビュー調査を行った。加えて、冬季には、自閉症者当人を対象に自由記述形式のアンケート調査も行った。 調査で得たデータは、研究論文の執筆と学会報告の資料として使用している。現在、自閉症者の母親をメインとする論文を執筆中である。具体的には、自閉症者の母親が子の障害を秘匿する規定因の解明、自閉症者の母親が子の障害を秘匿しながら構築する人間関係の解明、公共空間で子に同行する母親が行う他者との相互行為の分析、である。これらの研究を通して、自閉症者の母親が上述の主観的被差別感をもとに、家族や学校、公共空間で、戦略的な相互行為を展開していることが明らかにされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年度は、徐々にではあるが、予定していた調査対象者から必要とするデータを得られた。 2015年4月より、報告者はかつてからボランティア、および、活動を支援するディレクターとして所属している、自閉症者と自閉症者の保護者を支援する特定非営利活動法人(東海地方)へのフィールドワークを開始した。具体的には、参与観察形式で自閉症者や保護者が雑談している風景を記録したり、自閉症者当人や自閉症者の母親へのインタビュー調査などを行った。これらの調査は、現在も継続中である。 夏期には、上述の特定非営利活動法人とつながりのある、障害児の支援施設(東北地方)に行き、フィールドワークとして利用者(発達障害の診断や「発達の遅れ」を持つ子どもと母親)と施設職員の相互行為や支援の取り組み状況を記録し、施設職員や母親に対するインタビュー調査も行った。さらに、インタビューを行った母親から、子どもが自閉症の診断を持つ母親(いわゆる、ママ友)も紹介していただき、調査対象者の範囲を広げることができた。 2015年度末には、発達障害児(自閉症児)を対象に「学校の友だちや先生に分かってほしいこと」というテーマで、自由記述形式のアンケート調査を実施し、1000名を超える調査標を集めることができた。 以上のように、研究目的どおりの調査を遂行しており、2016年度も2015年度と同様の調査を継続する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度の研究進捗状況に示したように、2016年度も、自閉症者と自閉症者の保護者を支援する特定非営利活動法人(東海地方)と、障害児の支援施設(東北地方)へのフィールドワークを継続する予定である。加えて、2015年度末に、その他の研究者から紹介された東海圏の自閉症者の親の会での調査も予定しており、今後も、広域のフィールドでの調査を計画している。 以上で得られたデータは、2016年度においても研究論文と学会報告等の資料として使用し、自閉症者を取り巻く排除やスティグマの解消への一助となる研究を行うことを企図している。
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