研究課題/領域番号 |
15J10195
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山下 慧 東京大学, 総合文化, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
|
キーワード | 平面細胞極性 / 数理モデル / メカノバイオロジー / 張力測定 / 形態形成 |
研究実績の概要 |
平面細胞極性に関して、先行研究ではすべての細胞を双極的な極性を持つとし、その平面内での極性の方向が揃っているかどうかを平面細胞極性の有無の基準とされてきたが、細胞接着タンパク質の局在が4区分以上に分かれる多極的な極性の可能性は無視されてきた。そこでこの多極的な極性を持つ細胞が上皮組織に混在した時に平面細胞極性がどのような影響を受けるかという点に注目し、様々なパッキングパターンを持つ細胞配列上で境界伝播によって誘導された接着タンパク質の局在を解析した。多極細胞は、出現頻度が低い時には全体の平面細胞極性を損なうことはなかった。また、多極細胞は近傍に周回するように並べられた双極細胞を伴う場合が多く観察された。 そこで、細胞間の接着タンパク質の極性から細胞間の二項関係を定義し、この二項関係が順序関係になる場合(細胞配列内に周回するように並べられた細胞がない場合)と、ならない場合(周回するように並べられた細胞がある場合)について調べた。細胞間の二項関係が順序関係であるためには細胞配列に多極細胞が含まれないことが必要かつ充分であること、さらに同条件が平面細胞極性があることと同一視できることがわかった。 再分配カスケードモデルによって誘導される細胞配列上の接着タンパク質の局在を定性的に推測するモデルを構築し、多極細胞が含まれるかどうかによって平面細胞極性の有無を評価したところ、極性の境界伝播は細胞のパッキングパターンに依存しないことが確かめられた。 これらの結果をまとめ、論文を執筆し投稿した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行する類似の研究で用いられていたシミュレーションモデルよりも簡略化したモデルを用いることで、多極的な極性を持つ細胞というより複雑な場合を扱うことができるようになり、平面細胞極性に対する新しいアプローチが可能になった。これにより、細胞の順序関係という抽象的な概念で平面細胞極性を記述できるようになり、これまでの平面細胞極性の誘導モデルで無視されてきた細胞のパッキングパターンをモデルに組み込むことができた。 これらの結果は新規性、意義共に査読有りの学術誌で発表するに充分足るものであったので、論文にまとめ投稿した。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度までの研究成果が論文にまとめられてので、今後は関連する研究として、受け入れ研究者の研究テーマでもあった組織のパターニングの力学的側面の研究を行い、Forster resonance energy transer (FRET) を用いた分子プローブによる張力測定の技術をアフリカツメガエルの発生中の上皮組織に導入し張力測定を試みる。 FRETを用いた張力センサーはもともと培養細胞系で作られた実験手法で、組織に応用した例はまだ少なく、脊椎動物に応用するのは本研究が最初のものとなる。坪井准教授(東京大学)、北口准教授(早稲田大学・WABIOS)より提供されたFRET-basedアクチニン張力センサーをアフリカツメガエルの胚に導入し、機能評価と張力測定を行う。
|